渋谷ヒカリエのトイレ『スイッチルーム』© マリトモ『ニッポンのトイレほか』(アスペクト/2013年)

政府の「すべての女性が輝く社会づくり本部」が決定した『女性活躍加速のための重点方針』の中に、「暮らしの質向上のための取組」として「女性が暮らしやすくなる空間づくりへと転換する象徴としての快適で安全なトイレ環境の実現」が盛り込まれた。それに対し、女性からは「なんでトイレ?」「力を入れるのはそこ?」と疑問の声も噴出している。

女性は今までのトイレでは輝けないのか。日本全国のトイレを10年以上にわたって取材しているトイレハンターのマリトモさんに、トイレの現状と問題点を聞いた。

トイレにも男女平等を! 男子トイレが悲惨な状態

――今回の決定についてどのような感想をお持ちですか。

マリトモ:日本のトイレが改めて注目されることは嬉しいのですが、すべての人ではなく「女性」が先立ってしまったことに、正直、複雑な感情を抱いています。

というのも、私は10年以上前から日本各地に点在する男女トイレを取材し続けているのですが、ここ数年で建設されたショッピングモールなどの女性トイレは、個室だけでなく、化粧スペースや着替え・授乳などの休憩スペースも十分で、とても豪華な仕様のトイレがたくさんあるんですね。

一方で、男性トイレは個室の数がとても少なく、スペースも狭い上にデザインも簡素。温水洗浄便座も女性トイレのみというケースも多く見受けられます。

とある自治体では、「新設、建替の場合は、女性用便器を男性用の1.5倍以上にすること」が前提で補助金が支払われているんです。女性は大と小を兼ねる個室が必要なため、ある程度の広さが必要ですが、それは男性も同じです。

男性にも過敏性腸症候群(IBS)の方が多くいらして、朝の通勤ラッシュの時間帯では駅にある男性トイレの方に、辛そうな表情を浮かべながら列を作っている光景をよく目にします。便意を感じてトイレに駆け込んだら、数少ない個室がすべて埋まっていて苦しい思いをしたという話もよく耳にします。

――政府に期待したいのは女性だけでなく「男性も輝くトイレ」を、ということですね。

マリトモ
:女性として、女性トイレを整備していただけるのはとても嬉しいのですが、女性だけに特化せず、体に疾患を抱えている方や、高齢者の方、さらには外国人の方など、老若男女の「誰でも」使いやすいトイレが理想なのではないかと考えています。

オリンピックまであと5年。トイレの訪日外国人対策は?

――項目の中には「訪日外国人への配慮」もありましたね。

マリトモ:2020年に開催される東京五輪・パラリンピックを控えて、日本は「おもてなし」を強くアピールしています。そのひとつとして、国籍や男女を問わず、誰もが使用するトイレに焦点を当て、『日本トイレ大賞』も創設したということは、素晴らしいことだと思います。

しかし現状は、外国人観光客の多い京都でさえ、駅に設置されているトイレが洋式よりも和式の方が多いというケースも少なくありません。メーカーさんによって異なる温水洗浄便座の洗浄のボタンなど、国境を越えて分かる表記やデザインが大切になってくるので、提供者側が張り紙などで追記するといった工夫が今後は必要になってくるかもしれません。

和式トイレ自体、排泄の理に適っているデザインなので、残してほしいという思いもありますが、一方で足腰の弱い高齢者の方からは使いづらいという声も聞きます。トイレは老若男女の誰もが利用する空間であり、また体に疾患を抱えている方でも不便を感じることなくトイレを使用できることこそが、本来の「おもてなし」に繋がると思っています。

女性トイレが豪華になるほど目立つマナーの悪さ

――では、女性トイレだけに焦点を当てると、マリトモさんの考える「女性が輝けるトイレ」とは?

マリトモ:外出先で、用を足すとともに、気持ちを切り替えることができるという点でトイレは貴重です。さらに、清潔で設備が充実していると嬉しいですよね。ただ、すでに大都市を中心としたトイレ設備が整っている中で、マナー面の問題が浮き彫りになってきたように感じます。

女性トイレはよく行列ができると問題視されていますが、体の構造上や生理的な現象で仕方がないことでもあります。日本人女性は、西洋人女性と比べるとトイレの時間が平均4分長いという調査結果もありますが、女性の中には、後ろに並んでいる方がいても、個室の中で化粧や着替え、荷物の整理をしたり、また携帯メールのチェック、居眠り、さらにはご飯を食べたりと、トイレを“休息の場”として活用されている方が多いという話を聞き、少し残念に感じています。

周囲に対しての気遣いがさりげなくできる女性こそ、「輝く女性」のではないでしょうか。トイレ設備が充実すればするほど、マナーをはじめとしたあらゆる問題が浮上する可能性も否めません。これから政府主導で女性トイレの整備が進む中、公共的施設である女性トイレを使用する女性の品格が、今後はより一層問われていくと思います。

【マリトモさんの考える“女性が輝きそうなトイレ”】
●渋谷ヒカリエのトイレ『スイッチルーム』(東京)
「各フロア異なるコンセプトで、授乳スペースも充実しており、さらに『TOP&ClubQカード』会員さんは専用の『スイッチ・ラウンジ』という休憩スペースを利用することができます」

© マリトモ『ニッポンのトイレほか』(アスペクト/2013年)

●刈谷ハイウェイオアシスの『デラックストイレ』(愛知)
「私がトイレ取材を始めるきっかけにもなったトイレです。高速道路だけでなく一般道からも利用できる『刈谷ハイウェイオアシス』内にあり、カーペット敷きで、親子トイレをはじめ着替えるスペースや休憩用のソファなどがあります」

© マリトモ『ニッポンのトイレほか』(アスペクト/2013年)

●天王寺ミオのトイレ(大阪)
「大阪の天王寺にあるショッピングモールのトイレは、“トイレプロジェクト”を3年がかりで立ち上げ、キッズコーナーやレストコーナーも設置され、男女ともにデザインも凝っています」

© マリトモ『ニッポンのトイレほか』(アスペクト/2013年)

●飯給駅の公衆トイレ(千葉)
「豊かな自然を生かし、“世界一広い公衆トイレ”として作られた広大な屋外トイレを目当てに訪れる観光客が増えたそうです。こちらも残念なことに女性専用トイレなんです」

© マリトモ『ニッポンのトイレほか』(アスペクト/2013年)

(穂島秋桜)