「根拠のある奇跡を」 グラウンドを失くしても埼玉で躍進する東京成徳大深谷

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逆境はねのけ大躍進を遂げる


 野球部が創部されて17年目を迎えた昨春に練習拠点を失った。
 企業から借りていたグラウンドがソーラーパネルの設置場所となったため、以降は練習場所を転々とした。

 球場を借りられる際は実戦的な練習ができるが、それも週1、2回。それ以外はバッティングセンターの空きスペースや神社周辺の山道、体育館などを使う。また、時には合宿棟の和室を使って練習することさえある。

 そんな状況を説明すると、入部希望者はいなくなった。現在、部員は女子マネージャー2人を含めた19人だけとなっている。しかも2年生の女子マネージャー1人を除き部員はすべて3年生で、今年が野球部として最後の夏となってしまう危機も迫っている。

 だがそんな中、今春にチームは大躍進を遂げた。これまでなかなか越えられなかった8強の壁を、冬場の打撃練習などほとんどできなかった今年の3年生たちで見事に破った。

 創部時から指揮を執る泉名智紀監督は「もっと戦力が充実していた代だってあったんですけどね。もう、野球の神様がご褒美をくれたとしか思えないですよ」と笑う一方で、「“良い木ではなく良い森にならなければいけない”と常々言ってきたのですが、良い森になってきました」とチーム力の成長をしみじみと語った。


写真:17人の選手と2人の女子マネージャーで同校史上初の甲子園出場を狙う【高木遊】

1球でも多く


 この日の練習場所であるバッティングセンターに到着すると、東京成徳大深谷の選手たちは、一心不乱にテキパキと動く。ものの5分もしないうちに練習が始まり、1時間の使用時間が終わると、今度はあっという間に片付けを終え、選手たちはマイクロバスに急いで乗り込んだ。

 学校と練習場所を往復する車内では、17人の選手たちでミーティングをし、課題を洗い出す。運転手を務める泉名監督はそれに耳を傾けながら、時にアドバイスを付け加える。そして、学校に戻ると、早々と靴を履き替え、今度は体育館ですぐにまた練習が始まった。

 彼らにとっては、キャッチボールやティーバッティングの1球1球が、これまで以上にかけがえのないものとなっている。
 泉名監督も「(グラウンドが無くなり)選手に知恵はついたと思います。バッティングセンターも狭いスペースを有効に使っていますよね。今日も奥でバントをやっていましたけど、あれは“ここでもできるはず”という生徒の発案です」と目を細める。

 攻守の中心である捕手の吉田龍弘が「もっと野球の練習をしたい気持ちの時もありましたけど、冬場にこれでもかというほど走って体力と根性がつきました。今は他ではできない経験をさせてもらって感謝しています」と話すように、選手たちにも後ろ向きな気持ちは感じられない。


写真:決して広いとは言えないスペースの最大限に使い、練習に励む東京成徳大深谷の選手たち【高木遊】

OBの応援を背に


 また、公式戦のスタンドも17人のハンデを感じさせない。ベンチ外部員がいないため、OBが応援をリードし、強豪校にも負けない熱気を生み出している。応援団の1人である大学1年生の高野秋成さんは「監督さんや後輩に恩返しをして、少しでも力になりたかったので」と話す。

 高橋滉斗主将も「応援の声が大きくて、東京成徳大深谷の伝統や自分たちに託 してくれる気持ちが伝わりました」と感謝の言葉を口にしている。

 高まる期待と注目度に泉名監督は、「いろんなものを生徒たちに背負わせることは良くないのかもしれない。だけど、埼玉を勝ち切るだけの戦力は無いんで、応援してくれる人の気持ちを背負って戦って、“器の大きな人間になろうよ”“根拠のある奇跡を起こそう”と常々言っています。そしてその根拠は練習で作るものだと。そうした男気ある野球を、(試合での)2時間半で出させてあげたいですね」と語った。

 エースの落合大地も「“種を蒔かないと花は咲かない”と監督がよく言うのですが、一人ひとりができることをしっかりやって、その花を咲かせたいです」と気合いは十分だ。

 17年かけ築いた土壌に、逆境の中でもたくましく根を張った17人の選手たち。今年も酷暑が予想される埼玉でその花を咲かせることができるのか。
「根拠のある奇跡」の第一歩は、12日の2回戦・所沢北戦(予定)から始まる。


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