和歌山電鉄オフィシャルサイトより

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 去る6月25日、和歌山電鉄の貴志駅で駅長として活躍した猫のたまが死亡した。和歌山電鉄は、もともと南海電鉄貴志川線という路線だった。南海が経営難を理由に廃止を検討。2005年に岡山県で交通事業を手がける両備グループが、和歌山電鉄を設立。同線を引き継いだ。

 新しく発足した和歌山電鉄は沿線の名物をモチーフにした“いちご電車”や車内にオモチャを展示した“おもちゃ電車”などを運行し、観光客の取り込みも図った。その中で、なによりも話題をさらったのが貴志駅に住みついていた野良猫だった。

 南海電鉄時代から駅舎で飼われていた野良猫は“たま”と親しまれ、和歌山電鉄では駅長に任命。“たま”が駅長に就任すると、たちまち一大ブームが巻き起こる。

 和歌山電鉄は地方の一ローカル線に過ぎない存在だったが、“たま”の愛くるしい姿が人気を呼び、休日には “たま”目当ての観光客が遠方から押し寄せた。“たま”は和歌山電鉄の救世主的な存在になった。そうした“たま”の貢献度が考慮され、葬儀は社葬として執り行われた。

 “たま”駅長の功績は大きいが、和歌山電鉄の経営は相変わらず苦しいままだ。和歌山市議会は2015年度も経営支援の継続を決めている。支援する行政も財政は苦しく、いつまで支援を続けられるのかは不明だ。万が一、来年度になって支援が打ち切られれば廃線になってしまう。ブームで一時期は爆発的に利用者が増えても、継続的に乗客が増えなければ鉄道を維持することは難しい。そうした例は全国各地にある。

三陸鉄道の“あまちゃん効果”も一過性

 例えば、2006年にインターネットから“ぬれ煎餅”が注目された銚子電鉄は、“ぬれ煎餅”の売上で一時的に経営危機を乗り切った。しかし、2013年に再び経営危機に陥る。このときは行政の支援に頼ることで廃線は免れたが、廃線は待ったなしの状態となっている。

 同じく、東日本大震災で被災しながら復活を果たした三陸鉄道も経営は相変わらず厳しい。NHKの連続テレビ小説“あまちゃん”の舞台になったことで観光客は増加したが、以前のような活況は見られない。ローカル線としては一過性のブームでも干天の慈雨であることは間違いないが、振り回されているだけでは根本的な解決にはならない。

 ある鉄道事業者は「いま、ローカル線が取り込もうと躍起になっているのは外国人観光客」と話す。

 近年、訪日外国人観光客は増加傾向にある。“爆買い”で話題を振りまく中国人団体観光客は観光バスで移動するので鉄道には乗らないが、リピーターの個人旅行客は地方にも足を運ぶ傾向が強いといわれる。

「そうした地方にまで足を運ぶリピーターをどうやって増やすのか? ということが日本の観光業界の課題。そして、もうひとつの課題が多言語化です。外国人観光客が地方を訪れるにしても旅館や地元の商店がそれに対応していないと、やはり外国人観光客は足を向けづらい。鉄道会社も駅名や券売機などに外国語を併記するといった対策を施さなければなりませんし、外国語を話せるスタッフを確保する必要が出てきます。しかし、地方の鉄道会社にそんな余裕はないのです」(観光業界関係者)

 日本はすでに人口減少社会へと突入し、地方の過疎化は深刻化している。政府も行政も財政的な余裕はなく、最悪の事態としてローカル線の廃線ドミノが起こることも想定しなければならない。果たして、ローカル線が復活する起死回生策はあるのだろうか?

(取材・文/小川裕夫)