春のGI戦線の総決算ともいえる宝塚記念(阪神・芝2200m)が6月28日に行なわれる。断然の主役と目されているのは、勝てば史上初となる中央競馬同一平地GI3連覇という偉業を成すゴールドシップ(牡5)である。

 5月3日に行なわれたGI天皇賞・春(京都・芝3200m)では、苦手とされていた京都コースを持ち前のスタミナを生かすロングスパートで、念願の天皇賞のタイトルを手にした。この勢いに加えて、前述の通り、宝塚記念2勝を含めて阪神コースは7戦6勝と好相性。敗れたのは2着だった2歳時のラジオNIKKEI杯2歳ステークスのみということもあり、"クセ者"のゴールドシップとて、ここは信頼に値するという高い評価に結びついている。

 さらにゴールドシップの評価を押し上げている要因のひとつに、ステイゴールド産駒のこのレースとの相性も挙げられる。ゴールドシップのほか、オルフェーヴル、ナカヤマフェスタ、ドリームジャーニーによって過去10年間で5勝。これだけでも驚異の数字なのだが、驚くべきは種牡馬ステイゴールドの産駒が初めて宝塚記念に出走したのが2009年(勝ち馬ドリームジャーニー)で、実質は6年で5勝、しかも延べ出走頭数は10頭という高い勝率を誇っているのだ。

 これだけ十分にお膳立てが揃い、磐石に見えるゴールドシップといえども、不安がないわけではない。ひとつは冒頭でも触れた前人未踏の中央競馬同一平地GI3連覇の高い壁だ。グレード制導入以降、過去にこの記録に挑んだ中で、最も惜しかったのはメジロマックイーン(天皇賞・春91年、92年優勝、93年2着)で、ゴールドシップの母の父であることは少なからぬ因縁を感じさせる。

 また、ゴールドシップのいわゆるやる気のスイッチが、6歳の半ばになっても、どこでオン・オフが切り替わるか見えないということも気にかかる。苦手としていた京都の天皇賞・春で、ややもすれば奇策とも思える競馬を試み、スイッチが入って結果を出した。これを逆に考えれば、これまで必ずオンになっていた阪神コースで、前触れもなしにオフになる可能性も否定できない。

 そして、競馬は1頭で走るものではなく、常に相手がいる。中でも、この宝塚記念で復権を期す、昨年の春の牡牝クラシックで頂点に立ったワンアンドオンリー(牡4)とヌーヴォレコルト(牝4)の2頭は注目だ。

 ワンアンドオンリーは昨年の日本ダービー(東京・2400m)を勝利し、秋初戦のGII神戸新聞杯(阪神・芝2400m)も快勝したが、3歳クラシック三冠目のGI菊花賞(京都・芝3200m)では1番人気を裏切って9着に敗れた。その後、ジャパンカップ(東京・芝2400m)7着、有馬記念(中山・2500m)13着と低迷。今年3月にUAEドバイに遠征してGIドバイシーマクラシック(メイダン・芝2410m)では3着に健闘したものの、ダービー以降GIタイトルから遠ざかっている。

 もう1頭、ヌーヴォレコルトもオークスを勝利した後、秋初戦のGIIローズステークス(阪神・芝1800m)を勝利するも、続くGI秋華賞(京都・芝2000m)ではショウナンパンドラの2着、さらにエリザベス女王杯(京都・2200m)でもラキシスの2着と惜しい競馬が続いた。4歳となって最初のGIであるヴィクトリアマイルでは1番人気ながら6着に敗れ、こちらもオークス以降の大タイトルを逃している。

 この2頭に共通しているのが、昨春以降GIタイトルに縁がないという点だが、同時に2頭ともにハーツクライ産駒というのも共通している。

 ハーツクライの種牡馬としての成績(中央競馬)は、昨年が3位で、今年も現時点で同じく3位をキープしている。しかし、重賞での成績が、昨年の同じ時期でGI4勝を含む7勝(海外含む)だったのに対して、今年はわずかに2勝にとどまっている。昨年春の東京競馬場における3週連続GI勝利は記憶に新しいが、それが出来すぎだったとしても、今年の成績はやや物足りない。アベレージを考えれば、このあたりで帳尻を合わせてくると見てもいいだろう。

 さらにハーツクライ産駒の阪神競馬場の芝コースにおける勝率10%、連対率21%は、ステイゴールド産駒の勝率9%、連対率18%をわずかだが上回っている。ワンアンドオンリー自身も阪神競馬場は4戦3勝2着1回、ヌーヴォレコルトも3戦1勝2着1回3着1回で、その3着もGI桜花賞(芝1600m)で、ハープスターに0.1秒差だったように、ゴールドシップに引けをとらない相性を示している。

 何より、ハーツクライ自身もそうであったように、産駒も古馬になってからの驚異の成長力が持ち味だ。4歳秋までわずか2勝だったジャスタウェイ(国内外GI3勝)や、オープン入りが4歳秋だったアドマイヤラクティ(オーストラリアGI勝ち)のその後の活躍ぶりなどで証明されている。

 4歳を迎えての2頭の競馬ぶりを改めて見ると、悲観するどころか、むしろ目を見張るべきものがある。ワンアンドオンリーが挑んだドバイシーマクラシックでは、これまでとは一転した早め早めの競馬で、ドルニヤ(牝4、前年のフランスGI凱旋門賞5着)やフリントシャー(牡5、同2着)には交わされたものの最後まで食い下がった。このとき叩き合いで3着を死守した相手が昨シーズンの香港の年度代表馬デザインズオンローム(セン5)だったことは価値が高い。

 一方のヌーヴォレコルトも、今年初戦のGII中山記念(中山・芝1800m)でロゴタイプ(牡5)、イスラボニータ(牡4)の両皐月賞馬や、後に香港のGI クイーンエリザベス2世カップ(沙田・芝2000m)で2着に好走するステファノス(牡4)という強力な牡馬を相手に勝利を挙げている。

 展開面でも、ゴールドシップを前で迎え撃ち、叩き合いに持ち込めるという点も大きい。ワンアンドオンリーは前述のドバイシーマクラシックも然り、昨年の神戸新聞杯でも一旦は交わされそうになりながら、馬体を併せてから差し返す勝負根性を見せた。ヌーヴォレコルトも昨年のオークスは、追い込んできたハープスターを叩き合いで競り落とした。

 ともに、世代の頂点に立った馬の矜持(きょうじ)として復権を狙う2頭。春のグランプリで世代交代を果たし、秋の飛躍へと繋げられるだろうか。

土屋真光●文 text by Tsuchiya Masamitsu