2015年6月24日
TEXT:片岡義明


会場となった東京大学駒場第IIキャンパスのコンベンションホール

地域課題の解決を目的に、イベントやコンテストを通じてオープンデータやその活用ツール、アイデアなどの創出に取り組むプロジェクト「アーバンデータチャレンジ2015(UDC2015)」がスタートした。同プロジェクトのキックオフ・イベントを兼ねたシンポジウム「地域の課題解決力を全国に拡げよう!〜第2期・10の地域拠点&支援拠点が新たに参戦〜」が22日、東京大学駒場第2キャンパスにて開催されたので、その模様を紹介しよう。

UDCは、社会インフラのデータにかかわる情報の流通環境を整備することを目的とした組織「社会基盤情報流通推進協議会(AIGID)」および東京大学空間情報科学研究センター(CSIS)の「次世代社会基盤情報・寄付研究部門」が主催している。今後はコンテストの開催に向けてさまざまなシンポジウムやワークショップなどの取り組みを全国各地の拠点において実施する予定だ。

UDC2014では北海道、茨城、東京、神奈川、静岡、石川、大阪、徳島、島根、福岡の10ブロックが地域拠点となったが、今年のUDC2015ではさらに岩手、福島、滋賀、奈良、和歌山、鳥取、山口、愛媛、佐賀、鹿児島の10ブロックが加わり、計20ブロックで取り組む予定。今回のイベントでは、このような各地の拠点で活動する自治体関係者や研究者、エンジニア、プランナー、NGO関係者など幅広い人々が集まった。


全国20の地域拠点で実施

最初に東京大学空間情報科学研究センター・教授の柴崎亮介氏が開会挨拶を行った。柴崎氏は、「オープンデータの最終目標は『データをオープンにすること』ではなくて、UDCが掲げているように『地域の課題解決力を上げる』ことがポイントとなります。今回、副題に『10の地域拠点&支援拠点が新たに参戦』とあります。“参戦”というのは地域同士が競い合うという意味もありますが、もっとも大事な“戦い”は、『このデータでほんとうに役に立つことができるのか』『せっかくデータをオープンにしたのに役に立たない』といった意見に対して戦うことです。さらに、『このデータが無いおかげで、こういうことができない』という声を上げることで、『これをオープンにするべきだ』という話にもっていくことも大きな“戦い”だと思います」と語った。


CSIS教授の柴崎亮介氏

続いて、UDCの実行委員長を務める東京大学生産技術研究所准教授(AIGID代表理事)の関本義秀氏が登壇し、UDC2015の紹介を行った。「4月から5月にかけて拠点の公募を行ったところ、たいへんありがたいことに10都道府県の拠点の方が応募してくださいました」と関本氏。同氏はUDC2014の実施状況を報告したうえで、今年は20ブロックそれぞれの進展が課題であるとともに、データの流通量を質・量ともに増やしていくことも命題であると語った。

さらに、今年は国立国会図書館や株式会社ナビタイムジャパンがデータスポンサーとなるので、それらとも連携してワークショップを開催すると語った。また、既存アプリの横展開や地域実証を評価するため、コンテストでは「ソリューション部門」を継続するとともに、応募作品の数を増やすことも課題として挙げたうえで、「楽しく、突き進みましょう」と参加者に呼びかけた。


UDC実行委員長の関本義秀氏

基調講演では、国際大学GLOCOM准教授/OpenKnowledgeJapan代表理事の庄司昌彦氏が登壇し、「地域課題の『設定』とオープンデータ」というテーマで講演を行った。「オープンデータは人がつくることができる地域の資源であり、財政の厳しい人口減少・縮小社会においても枯渇しない、社会的に使えるリソースです。それを活用するには、行政からの課題発信が大切で、『今、こことコラボレーションしたい』『ここで力を借りたい』というテーマ設定をみずから発信して、そこに企業や住民を巻き込んでいくというやり方もあると思います」(庄司氏)。

さらに、欧州では、多様な人が集まって対話や協業を行い、創造的に問題を解決する「フューチャーセンター」という施設があり、そうした話し合いの場で大切なのは、思いをもった人の大切な『問い』からすべてがはじまることであると語った。「『私はこうしたい』『解決したい』という強い意志をもった人がいると、それがほかの人を巻き込んで大きな解決策になっていくものです。そのようなパワフルな『問い』をもつと、ハッカソンやアイデアソンなどもうまく回っていくと思います。そのためにも色々な役割の人が必要で、オープンデータの活用というと、これまではモノをつくれる人が大事でしたが、今後は問いを立てる人も大事になってくると思いますし、『問い』の質が重要になると思います」(庄司氏)


GLOCOMの庄司昌彦氏

基調講演のふたつめは、UDC2014でアプリケーション部門の金賞を受賞した「さっぽろ保育園マップ」の事例紹介で、シビックテックコミュニティ「Code for Sapporo」の久保まゆみ氏が登壇した。同マップは札幌市の保育園情報を地図上で確認できるWebサイトで、国土地理院が提供している国土数値情報や自治体が公開している情報、住所から緯度経度に変換するシステム「CSVアドレスマッチングサービス」などを使用している。検索機能もあり、「24時間開いている」「札幌駅から500m以内」といった条件を入力して検索できる。また、小中学校区も一緒に調べることが可能だ。

久保氏は、「保育園がもっと身近なものになってほしいという思いがあって、このマップをつくりました。親が病気になったり、子育てが行き詰まったりしたときに、一時保育で預かってもらうなど、色々なニーズがあるので、マップがあることで気軽に使ってもらいたいと思います」と語る。同システムはオープンソースで公開しているので、札幌以外の町でもすぐにつくることができる。久保氏は保育園マップの活用が生駒市や徳島市、流山市など全国に広がっていることを紹介したうえで、「マップづくりを通して人と人がつながり、そのような人が集まる場ができることでマップの持続性も向上すると思います」と語った。


さっぽろ保育園マップ

もうひとつの事例紹介として、UDC2014のアプリケーション部門の銀賞を受賞した「MyCityForcast〜あなたのまちの未来予報」について、東京大学大学院工学系研究科の長谷川瑶子氏が登壇した。「MyCityForcastは、自治体ごとの都市の将来像を市民にわかりやすく提示するシミュレーションツールで、行政からすれば都市計画に市民をポジティブに巻き込んでいけるツールであり、市民の立場で見れば、計画への賛成・反対を判断するためのツールとして、どちらに対してもプラスの効果を与えられるツールです」(長谷川氏)。

同ツールでは、情報を知りたいエリアと年代を選択することにより、人口や都市生活の利便性、環境など地域の環境変化を表す15項目についてのシミュレーション結果が表示される。年代による変化をグラフで表示したり、現在の施設の分布を表示したりすることも可能だ。「使えるデータが増えるほど、街の将来像がはっきり見えてくるようなツールを目指しています」と長谷川氏。同ツールでは現在、水戸市、室蘭市、横浜市、相模原市の4都市に関するシミュレーションを行える。


MyCityForcast

基調講演の最後に登壇したのは、一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)の郡司哲也氏。UDC東京2013およびUDC2014の審査員を務めた郡司氏は、「地域課題の解決=オープンデータ×What?〜ソーシャルパワーの広がり〜」と題した講演を行った。郡司氏は、「UDCで評価が高かった作品には、必ず強い意志が感じられます。『さっぽろ保育園マップ』についても、強い意志を感じたから金賞が授与されたと思っています。『こんなことがしたい!』と誰かが声を上げることによって、『このデータを使ってください』『プログラムができる人を知っているよ』と声をかけてくれる人が出て、それらがつながってコミュニティができると素敵だと思います」と語った。

さらに、このような課題解決の活動を継続させていくことの重要性を語ったうえで、「課題を感じるのはヒト、課題を解決するのもヒト、恩恵を受けるのもヒトなので、オープンデータやイベントは課題を解決するためのツールとして使用し、ソーシャルパワーで課題を解決していただきたい」と語った。


JIPDECの郡司哲也氏

このほか、UDC2015開催に向けて、新規追加となった地域拠点10ブロックの紹介や、データ提供・支援拠点の紹介、UDC2014で活動した第1期拠点10ブロックによる活動報告も行われた。これら20ブロックの地域において今後、さまざまなワークショップやイベントを開催するとともに、2015年度末にかけて、オープンデータやデータを活用するためのツール/アプリ、アイデアなどを募集するコンテストを実施する予定だ。

なお、今回に続く次のイベントは、8月8日に国立国会図書館(NDL)にて開催する予定。同イベントでは「国立国会図書館デジタルコレクション」の資料248万点から地域の歴史・文化を掘り起こすための「NDLデータ利活用ワークショップ」を行う。

■URL
アーバンデータチャレンジ2015
URL:http://aigid.jp/?page_id=1175
NDLデータ利活用ワークショップ
URL:http://ndl.go.jp/jp/event/events/20150808dataws.html
2015/06/24