中国での情勢変化は、こんなエピソードにも垣間見える。拓殖大学教授の富坂聰氏が紹介する。

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 中国のネット上に写真と一緒に投稿されて話題になった話が、新華ネット上に掲載され全国的なニュースとなった。

 タイトルは、〈上海で物乞いが警察を嘲笑 「おまえはいくら稼いでいるんだ? オレの1日の収入は平均で670元(約1万3400円)だぞ!」〉だ。

 場所は上海の地下鉄。一人の若い物乞いが駅の構内に座り込んでいたところ駅員が別の場所に移動するように求めたが、物乞いは頑として応じない。これに困った駅員が警察に通報し、警察が登場したのだった。

 呼ばれた警官と物乞いの間で「ここをどけ!」、「どかない」と口論が起きたのだが、物乞いは動じることなく「あんたにオレをどかせる権利はない」と居直ったというのだ。

 そして、このやり取りを面白がって撮影していた見物人の目の前で物乞いが発した言葉がタイトルになっている言葉だ。

 興味深いのは物乞いが、警官の収入を自分より下だと見て上から目線で応じていることだ。もちろん、これが話題となったのも同じ理由からだ。

 胡錦濤政権までであれば、警官は権力の象徴であり、賄賂収入が最も高い職業の一つと考えられた。しかしいまは、明らかに収入的に恵まれていない職業として扱われているということだ。

 この変化の速さにはあらためて驚かされるが、これも習近平の反腐敗キャンペーン、ぜい沢禁止令の効果というべきなのだろう。中国社会の変化を意識させられるエピソードである。

 それにしても上海の物乞いの収入が1日平均1万3400円とは、低成長時代を迎えたとはいえ、まだまだ中国の消費パワーの勢いを感じさせる。