熟練の技を見せた手描き看板職人の北原邦明さん

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 19歳のデビュー後、これまで約160本の映画に出演し、現在も幅広い世代からの支持を集める大女優・若尾文子出演の名作60本を一挙に上映する「若尾文子映画祭 青春」が、6月27日から角川シネマ新宿で開催する。このほど、懐かしの手描き映画看板が同劇場に掲出されることが決定し、手描き看板職人の北原邦明さんに都内のアトリエで話を聞いた。

 この道38年のベテラン職人北原さんは「ライフ・イズ・ビューティフル」や「ハリー・ポッター」シリーズなど、全盛期には年間200作品もの看板を手掛けた。しかし、2013年に東京・銀座の名画座「シネパトス」が閉館したことにより、コンスタントに手描き映画看板を制作する機会はなくなったという。しかし、「あれば楽しい。遊び心がある。写真みたいに描くと(お客さんが)通り過ぎちゃう。かえって絵とわかる方が見てくれる」と、手描き看板の魅力を語り、「仕事が楽しいって言っちゃうと申し訳ないね(笑)」と、照れ笑いを浮かべて“職人”という肩書へのプライドを見せた。

 いざ制作が始まると、チラシなどの宣伝材料をフィルムに焼き、新聞紙に使われるような薄いざら紙に投影しながら油性マジックでさらさらと下描き。その後、手描きならではのぼかしの風合いを表現するために霧吹きで紙を濡らし、「自分で(筆先を)カットした」という50本程のハケや筆から、適したものを選んで大胆に塗っていく。一つの容器の中で使用する全ての色を作り出し、時にはハケの中でグラデーションを作る様子はまさに熟練した職人芸だ。

 描き出しはバラバラに見えていたそれぞれの色が次第に調和し、1時間程で、手描きならではの躍動感と温かみのある若尾の顔が姿を現した。ハケで塗ったとは思えない、軽やかに風になびく髪や、かすかに高揚したほおの色は「青空娘」の若尾のはつらつとした表情そのものだ。

 下描きから色付け、タイトルやクレジットなどの文字入れをして2日程度で仕上がるという手描き映画看板だが、映画の公開が終われば撤去される。その上にまたざら紙を敷き、新しい絵を塗り重ねるのだ。もったいない気もするが、北原さんは「自分で描いたものはまたすぐ描けるから」と気にも留めない様子。しかし、大先輩たちが描いた作品には未練があるようで、「『ワイルド・ギース(1978)』の丸看板は貰っておけばよかった。顔のタッチがすごいんですよ」と目を輝かせていた。

 今回の看板は、配給会社KADOKAWA側の“手描き感”のあるものに仕上げて欲しいとうオファーにより、「あまり鮮やかすぎない、昔風な色合いが出せればいいなと思います」と意気込む北原さん。映画祭期間中は、温もりのある懐かしの手描き看板を映画と一緒に楽しむことができそうだ。

 「若尾文子映画祭 青春」は、6月27日〜8月14日に角川シネマ新宿で開催。手描き看板は13日〜7月24日に同劇場に掲出予定。