2対0だったかもしれないゲームは、1対2で終わった。6月7日に行われたJ1の川崎F対湘南戦である。
 
 湘南の1点リードで迎えた53分だった。湘南の菊池大介がドリブルで持ち込み、右足を振り抜く。ドライブのかかった一撃はバーをたたき、そのまま真下に落下する。
スロー映像で見ると、ボールはゴールラインをこえたように見える。だが、得点は認められず、スコアは動かない。逆に川崎Fが60分に同点とし、90プラス4分に2対1とした。

 ゲームの終了直前に湘南を突き放した川崎Fの執念を、まずは評価するべきだろう。同点のPKを獲得した中村憲剛は、両手を大きく振り上げてスタンドにアピールをした。「もっと盛り上げてくれ!」というアピールだ。途中出場した彼の闘志と巧みなボールの配球は、低調だったチームに活力をもたらした。風間八宏監督が切った攻撃的な交代のカードも、勝因にあげられる。

 ここからは仮定の積み重ねである。

 菊池のシュートがゴールとなっていたら──湘南がそのまま押し切ったかもしれない。攻撃的になった相手の背後を突いて、さらに得点を重ねたかもしれない。

 湘南の?貴裁監督は、試合後の記者会見で「それが実力と言われればそれまでです」と話した。判定に泣かされることがあり、判定に助けられることもあるのがサッカーである。だが、「それが実力だと切り捨てるのもなかなかできない」とも、指揮官は話している。こちらが本音だろう。

 振り返れば前節の広島戦でも、湘南は微妙なジャッジに遭っている。大槻周平がペナルティエリア内で倒されたように見えたが、PKは与えられなかった。0対0に終わった広島戦と逆転負けを喫した川崎戦で、湘南がそれぞれ勝利をつかんでいたら──勝点5を加算し、10位から7位へ順位をあげることになる。
 
 オフサイドラインに目を凝らす副審が、中長距離のシュートが入ったかどうかを見極めるのは難しい。そのため、審判を増やす動きが世界的にひろがっている。
 
 現地時間6日夜に行なわれたCL決勝で、バルサのゴールが取り消された。2対1とリードした70分過ぎに、ネイマールのヘディングシュートがゴールへ吸い込まれた。ところが、ヘッドをしたボールが右手に当たったために、ゴール脇に配置される追加副審がハンドを認めたのだった。
 
 ネイマールのプレーに、手でボールを押し込もうという意思は読み取れなかった。ゴールとしても良かったと個人的には考えるが、追加副審はネイマールの動きを見られる位置にいた。その意味で、得点が取り消された判定も「理解」はできる。
 
 川崎F対湘南戦の、菊池のシュートは違う。第三者的な視点に立っても、「納得」も「理解」もできない。
 
 審判は評価をされない。判定に疑惑を持たれないことは最低条件だが、それが何よりも難しい。主審も、副審も。

 川崎F対湘南戦は、第1ステージの優勝争いを左右する一戦ではなかった。だが、勝点3をつかむのか、勝点1を分け合うのか、勝点なしで終わるのかは、彼らにとって大切な意味を持つ。

 ゴールラインテクノロジーや追加副審を採用する大会やリーグが増えている一方で、「判定は人間(審判)がするもの」といった意見も根強い。そうした議論で何よりも優先されるのは、「選手が納得してプレーできるか、観衆がまたサッカーを観たいと思えるか」である。「判定も含めて実力だ」と切り捨てていいものではない。