東京競馬場を舞台に繰り広げられた春のGIシリーズも、今週末6月7日に行なわれる、春のマイル王決定戦・GI安田記念(東京・芝1600m)で一段落を迎える。今年は2003年以来12年ぶりに海外からの参戦がないものの、GI馬5頭を含む18頭が出走を予定している。

 今年は昨年のジャスタウェイや一昨年のロードカナロアのように突出した実績馬が不在。そんな中、存在感が大きいのは6頭が出走するディープインパクト産駒だ。

 前述の5頭のGI馬のうち、オーストラリアでGIジョージライダーS(3月21日/ローズヒルガーデンズ・芝1500m)を制して凱旋となるリアルインパクト(牡7)や、昨年のマイルチャンピオンシップ(京都・芝1600m)を制したダノンシャーク(牡7)、昨年のNHKマイルカップ(東京・芝1600m)の勝ち馬ミッキーアイル(牡4)の3頭がディープインパクト産駒で、他にも昨年のマイルチャンピオンシップで2着だったフィエロ(牡6)、母がスプリントGI2勝のフラワーパークという良血で、2月に同じ舞台のGIII東京新聞杯(2月8日/東京・芝1600m)を勝利しているヴァンセンヌ(牡6)といった、注目を集めそうなメンバーが顔をそろえた。

 しかし、この時期の東京芝コースにおいて、ディープインパクト産駒は苦戦の傾向が強い。安田記念で使用されるCコースは、先週のダービーウィークから使われている。5月30日と31日の両日で、20頭が東京競馬場の芝のレースに出走したが、勝利を挙げたのはわずかに1頭。ディープインパクト産駒がデビューしてから2015年5月31日までの、中央競馬の芝・平地競走における勝率が14%を超える(5748戦814勝)ことを考えると、あまりにも物足りない。

 さらに、安田記念に限定すると、これまで延べ13頭が出走して、[1-0-1-11](左から1着-2着-3着-4着以下)。こちらも勝率7.7%と、アベレージの半分近くということがわかる。昨年も7頭が出走して最高はダノンシャークの4着だった。

 ちなみに、昨年は不良馬場が影響したという意見もあるが、ディープインパクト産駒は重・不良でも勝率14.3%(348戦50勝)と、意外にも馬場状態を問わないことから、不良馬場だったことは関係ないと言える。原因は特定できないが、この時期の東京コースで、ディープインパクト産駒を絶対視するのは禁物だ。

 そこで、主力とも思えるディープインパクト産駒を軽視することで浮上してくるのが、前走のGIIIダービー卿チャレンジトロフィー(4月5日/中山・芝1600m)で初重賞勝利を挙げ、目下3連勝中と勢いのあるモーリス(牡4)だ。特に、そのダービー卿チャレンジトロフィーは圧巻のひとこと。出遅れ気味のスタートを切りながら、後半3ハロン11秒6−11秒7−10秒9という早い流れを、脅威の斬れ味であっという間に2着以下に3馬身半差をつけた。

 この春最大の上がり馬とも評判のモーリスだが、もとより2歳のデビュー時からその素質の片鱗は見せており、高い評価を受けていた。2013年10月に京都でのデビュー戦(芝1400m)を上がり33秒8であっさり勝ち上がると、続くGII京王杯2歳ステークス(東京、芝1400m)では単勝1.5倍の断然人気を集める。結果は出遅れもあって6着と人気を裏切ったが、ここでも上がり33秒1という2歳時としては驚異的な末脚を見せた。

 自己条件に戻って2勝目をあっさり挙げたあとは、クラシック本番には駒を進められなかったものの、GIIスプリングステークス(中山・芝1800m)では0.4秒差の4着、白百合ステークス(京都・芝1800m)では後に重賞勝ちして、今年4月には香港に遠征してGIオーデマピゲ・クイーンエリザベス2世カップ(沙田・芝2000m)で2着となるステファノスから0.1秒差3着など、重賞・オープン戦線で好走を続けた。

 もっとも、この頃は素質だけで走っていたとも考えられる。本来の能力が花開いたのは、白百合ステークス後の休養期間中に当時の吉田直弘厩舎から、先週の日本ダービーを勝った現在の堀宣行厩舎に移った効果もあるだろうが、何より父母から受け継いだ『奥手の良血』によるところも大きい。

 モーリスの父スクリーンヒーローも、3歳時にGIIIラジオNIKKEI賞3歳ステークス(福島・芝1800m)2着、GIIセントライト記念(中山・芝2200m)3着と重賞で好成績を残していたが、キャリアのピークを迎えるのはGIIアルゼンチン共和国杯(東京・芝2500m)からGIジャパンカップ(東京・芝2400m)を連勝した4歳秋。その父グラスワンダーも、2歳時にGI朝日杯3歳ステークス(当時、中山・芝1600m)を制してはいるものの、GI宝塚記念(阪神・芝2200m)とGI有馬記念(中山・芝2500m)を勝ったのは4歳の時だった。スクリーンヒーローの祖母にあたるダイナアクトレスも4歳時に牡馬相手に重賞2勝を挙げ、ジャパンカップでは日本馬最先着の3着に好走した。その代表産駒であるステージチャンプも、重賞初勝利は4歳のGII日経賞(中山・芝2500m)だった。

 一方、モーリスの母メジロフランシスは8戦して未勝利に終わったが、その母メジロモントレーは4歳を迎えてすぐのGIII金杯(中山・芝2000m)を制すると、秋にはスクリーンヒーローと同じくアルゼンチン共和国杯を勝利。続く年明けのGIIアメリカジョッキークラブカップ(中山・芝2200m)も含め、牡馬相手にGIIを連勝している。

 そのような血統背景を持つモーリスは、ダービー卿チャンレジトロフィー勝利後、ここ一本で調整されてきた。登録馬が多く、除外も懸念されていたが、レースが近づくにつれ、出走が確実となった。このあたりは、同厩のドゥラメンテの皐月賞にも通ずる運気もある。ダービートレーナーの勢いには逆らえない。

 脈々と流れる『4歳で成熟する』血。父母から受け継いだ高いポテンシャルが混戦を断ち、新たなマイル王の誕生へと繋がる可能性は十分ある。

土屋真光●取材・文 text by Tsuchiya Masamitsu