女子W杯の初戦を6月8日に控えるなでしこジャパンが、国内でのテストマッチを連勝で終えた。

 オールドファンに懐かしいアントニオ・カブリーニ率いるイタリア女子代表と対戦した28日のテストマッチは、際どい逃走劇だった。0対0で迎えた後半の早い時間帯に先制したのは、勝つための試合運びをチームとして共有できていることを感じさせた。試合の流れを引き寄せることのできるゴールだった。

 その一方で、後半終了間際にはビッグチャンスを与えている。澤穂希も宮間あやもピッチをあとにしていたが、イタリアは今回のW杯に出場しない。欧州予選でプレーオフまで進出したものの、ドイツやフランスに比べれば力は落ちる。W杯へ向けた最終調整の過程にあるとはいえ、前半から何度かスキを見せてしまったのは気になるところだ。
 
 W杯へ臨むなでしこジャパンには、当然ながら大会連覇の期待が寄せられている。佐々木監督と選手たちがどれほど「難しい」と繰り返しても、連覇の二文字はチームに付きまとう。
 
 厳しい見通しも聞こえてくる。4年前から主力の顔ぶれが変わらず、今冬のアルガルベカップで過去最低の9位に終わったことで、ライバルに追いつかれた、追い抜かれたのではないか、という見かただ。36歳の澤の復帰を、若手や中堅が思ったように伸びていない現実の表れと見なす意見も、ふつふつと沸き上がっているように感じる。
 
 イタリア戦のスタメンは、全員が前回のW杯のメンバーだった。レギュラーの顔ぶれは変わっていない。違いが生まれるとしても一つか、多くても二つのポジションだろう。 
 
 W杯連覇の難しさは、男子の歴史が明らかにしている。男女の違いはあるものの、4年という時間の重みは等しい。引用する意味はあるはずだ。
 
 たとえば、1982年大会のアルゼンチンである。78年大会の優勝メンバーに、ディエゴ・マラドーナとラモン・ディアスというとびきりの俊英を加えながら、2次リーグ敗退の憂き目に遭った。
 
 82年大会でアルゼンチンを打ち砕き、世界の頂点に立ったイタリアも、4年後はほとんどインパクトを残せなかった。90年大会で優勝したドイツも、98年大会で優勝したフランスも、4年後は失意に打ちひしがれた。2010年大会のイタリア、14年大会のスペインは、前回優勝国ながらグループリーグ敗退に終わっている。
 
 4年前の栄光から転落したこれらのチームには、「世代交代の失敗」という共通項がある。エース格の選手がコンディションを落としていたチームもあった。
 
 ひるがえって、なでしこジャパンである。

 イタリア戦のスタメンの平均年齢は、28.8歳だった。ベンチ入りを含めた23人の平均は27.7歳である。現在のチームは、世代交代のタイミングを見誤った末の構成ではない。
 
 むしろ浮かび上がるのは、4年前の優勝の価値だ。レギュラーの平均年齢が24歳から25歳で、なでしこジャパンは世界の頂点に立っている。08年の北京五輪ベスト4を下敷きにしていたとはいえ、2011年の世界制覇は無欲の戦いの結実だったのだ。
 
 そう考えると、このチームが本当の意味で勝負できるのは、今回のW杯ではないだろうか。4年という時間のなかで、個々の選手が積み上げてきた経験は見落とせない。

 24日のニュージーランド戦と28日のイタリア戦を見るかぎり、澤は衰えを感じさせない。優勝するためには7試合を戦わなければならず、36歳の彼女が大会を通してトップフォームを維持できるかどうかには疑問符がつく。だが、佐々木監督は澤抜きのオプションを増やしつつある。背番号10がピッチに立たない時間帯も、極端にチーム力が落ちることはないだろう。
 
 連覇は難しい。間違いなく困難なミッションだ。それでも、「世代交代の失敗」や「澤への依存度の高さ」で今回のW杯を語るのは、チームの姿からかけ離れてしまうと思うのだ。