「自然治癒力」を持つコンクリートの実現が近い?

耐久性が高く、作るのが簡単で、かつ比較的安価という利点があるコンクリート。現代でも様々なところで目にする建築資材だが、古くは古代ローマ時代の建造物にも使用されているという。この身近で利用しやすい材料について、難点をひとつ挙げるとすれば、ひび割れしやすい性質を持っていることだ。建物の維持のために必要な作業とはいえ、ひびの補修にかかるコストや時間は大きなものになる。
こうした課題に取り組むべく、オランダのデルフト工科大学では、ひび割れを自ら補修する“自然治癒力”を持つコンクリートの研究を行っている。
バクテリアを利用した自己治癒力を持つコンクリート
デルフト工科大学のチームは、炭酸カルシウムを形成するバクテリアを利用してコンクリート構造物の自己治癒力をどのように増進させるか、そしてこれらのバクテリアが成長するためにはどんな状況が必要かを研究している。
コンクリートの弱点である、張力影響によるひび割れが大きくなると鉄筋の腐食につながる。このことは建物の見栄えを悪くするばかりか、当然のことながら構造の工学的な質をも危険にさらすことになる。そのため、設計者は建造物のひび割れ影響を抑えるために、必要最低限よりも多く鉄筋を使うケースがあるが、この余分な量の鉄は構造的には不要なものであり、また鉄の価格が高騰した際には非常に高額になってしまうという問題もある。
そのため、ひび割れを扱う別の方法として“補修”が考えられるが、地下部分や水道施設など内部に水を溜める建造物では、大変難しい作業になることは言うまでもない。そこで浮上する究極のアイデアが、デルフト工科大の研究チームが取り組んでいるような、自ら修復するコンクリートなのだ。
セメントペーストの中でも生存できる特定の種類の芽胞を発見
コンクリート内部はpH(水素イオン指数)が高いため、生存できるのは好アルカリのバクテリア。研究チームいくつかのバクテリアをセメントペーストに混ぜて実験したところ、時間が経っても特定の種類の芽胞が生存していることを発見したという。
彼らは現在、バクテリアが最も多く炭酸カルシウムを産出する条件を整えることや餌を吸収する方法の最適化に注力。加えて自己回復能力を持つバクテリアのコンクリートを視野に入れ、硫酸塩や気温変動をはじめとする様々な生存条件を悪化させるメカニズムにどのように影響されているかも調べているようだ。
こうしたコンクリートが実現すれば建築コストの抑制が期待できるほか、耐久性を考える上でもよい材料になるだろう。また危険な物質を貯蔵する、作業員が近づきにくい建物への利用も想定されているという。今後のさらなる研究と実用化を待ちたいところだ。
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【参考・画像】
※ Self-healing of Concrete by Bacterial Mineral Precipitation - TU Delft