ホン・カウ監督

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 ベン・ウィショー主演作「追憶と、踊りながら」が、5月23日から公開される。息子を失った初老の中国人女性と、息子の恋人であった英国人青年の交流を繊細に、美しい映像で描いたドラマだ。本作が長編デビュー作となったカンボジア系英国人監督ホン・カウが来日し、作品について語った。

 介護ホームで暮らすカンボジア系中国人の女性ジュンは、息子のカイを亡くす。ジュンはカイの友人リチャードを毛嫌いしていたが、リチャードはジュンのことをいつも気にかけており、ある日、リチャードは英語が話せないジュンのために通訳を雇うことにする。ホン・カウ監督が、自身の母への思いを投影し脚本を執筆。リチャードをウィショーが演じ、武侠映画で活躍するベテラン女優チェン・ペイペイが母親役を好演している。

 主人公のリチャードのキャラクターについて、「非常に複雑な感情を何層にも持っている人物で、すごく繊細な部分と強い部分を抱えている青年。このような人物を演じきれる俳優はそんなにいないと思った」と説明する。

 「007 スカイフォール」「クラウド アトラス」など数々の大作に出演するウィショーが、脚本にほれ込み低予算作品にもかかわらず主演を即決した。「『パフューム ある人殺しの物語』を見て以来尊敬している、彼がリチャードを演じてくれたらと思っていた。スターである彼がこんな低予算の作品に出てくれるのは難しいと思いつつ、自分の思いを託した脚本を送ったんだ。そうしたら、オファーを受けてくれることになって、それだけでも大きなサプライズだったんだ」

 そして、共に仕事をしてみてわかった俳優ウィショーの素顔をこう語る。「彼自身の役への向き合い方が素晴らしいんだ。とても有名な俳優にもかかわらず、現場にやってくるとまったく偉そうにするそぶりがなく、自分たちとの作業についても、いろんなことに対してとっても寛大だった。役を作り上げていくプロセスを通して、さらに彼を尊敬することになったよ」

 劇中では、複数の登場人物たちの世代の違いや言葉の壁による対立を丁寧に描いている。「言葉を超えて引き寄せあう関係が成立するということを描きたかった。共通の言語を持っていてもそこに対立や摩擦が生まれるし、でも上手く伝われば和解ができる。コミュニケーションがこの作品のひとつのテーマ」と語り、「夜来香」など往年の中国の歌謡曲をつかった理由は「過去と現在の共存もこの作品のテーマ。あの音楽を聴くだけで、私たちの生活の中に過去が流れ込むようなノスタルジーを感じさせることが重要だと思った」

 内戦時のプノンペンで生まれ、難民としてベトナムで育ち、後にロンドンに移住した。英語を母語とし、広東語も操るが、出生地であるカンボジアでの記憶はほとんどないという。「母はカンボジア人ですが、父親が中国人だったので、家族の中では中国文化の影響が大きかったのです。自分のルーツに関する作品を作ってみたい気持ちはありますが、はたして自分にその資格があるのだろうかと複雑な思いがあります」と心情を吐露。今作はサンダンス映画祭で、デビュー作としては異例のオープニング作品に選出され、撮影賞を受賞。今後の企画としては「ベトナムを舞台にした映画を撮る予定」だそう。次世代を担う新鋭の次回作にも期待したい。

 「追憶と、踊りながら」は、東京・新宿武蔵野館ほか全国で公開。