いやあ、楽しかった。5月14日に行われたJ1リーグの柏対湘南戦である。

 柏がACLのラウンド16へ進出した関係で、第12節ではこの1試合のみが木曜日のナイトゲーム開催となった。4月25日から中2日ないし中3日で公式戦を消化してきた両チームにとっては、20日で6試合目(!)となる。

 ACLに参戦している柏は、ベトナムでのアウェイゲームも消化してきた。どちらのチームの選手も、疲労感を引きずっている。

 だからだろうか、もったいないミスが散見された。やってはいけないミスも。

 両チームともに得点機を逃したから、0対0というスコアを「決定力不足」が招いたものとすることはできる。この試合を伝えるJリーグの公式サイトにも、「ともに決め手を欠き、スコアレスドローに」との見出しがあった。

 僕の感覚は違うのだ。最高に面白いスコアレスドローだった。

 柏も湘南も、スタイルがはっきりとしている。スタイルとは「個性」であり、「こだわり」であり、「譲れないもの」であり、「強み」である。

 個性とは「自分たちはこうあるべきだ」という姿で、サッカーにおいては相手に分析されやすい現実を内包する。「こだわり」や「譲れないもの」が、はからずも「弱み」へ変質してしまうことがあるのだ。

 そういったことを理解したうえで、柏と湘南はスタイルをぶつけ合った。相手の長所を打ち消すことよりも、自分たちの長所を発揮することに、体力と気力と戦術眼のほとんどすべてを注いだ。

 ピッチ上では勇気と勇気がぶつかり合う。

 相手より一歩前へ出ようとする。相手より一歩先へ出ようとする。ルーズボールを奪おうとする。目の前の敵を抜き去ろうとする。すべてのプレーが「ゴールを奪う」ことへ結びついているのだ。ボールを奪い取ることも、両チームにとっては攻めるための明確な手段なのだ。

 湘南の?貴裁監督は、「チャンスだと思っているのにいかなかったら、何もならないよ」と選手に話しているという。果たして、湘南の選手たちは心の囁きにどこまでも忠実だった。チャンスのきっかけを、自分たちで摘み取ることがないのである。

 レイソルもまた、力を出し惜しみするところがなかった。「持っているものを100パーセント出す。何かを隠したり出そうとしなかったりすれば、あっという間に相手に飲み込まれる」という吉田達磨監督の指示を、ピッチ上で鮮やかに体現していた。

「目が離せない」というフレーズは、こういう試合にこそ当てはまる。「なぜボールを下げる」とか「なぜ打たない」といった不満を表すタメ息は、一度も聞こえなかった。

 スタイルを貫いた戦いかたは、現実よりも理想へ傾いている。必ずしも勝利につながるとは限らない。ただ、監督と選手の思いは、間違いなく観る者の心に響く。ゴールシーンが見られなくても、観衆は満足感とともにスタジアムをあとにすることができる。クラブの在りかたとしては成立するものだ。

 ベストコンディションでないなかで、両チームは上質なエンタテイメントを作り上げた。時間の経過の何と速かったことか。

 いやあ、楽しかった!