3歳マイル王決定戦のGI・NHKマイルカップ(東京・芝1600m)が5月10日に行なわれる。今年で節目となる20回目。このレースをきっかけに飛躍した馬も少なくなく、2011年は3着だったリアルインパクトが続く安田記念(東京・芝1600m・GI3歳以上)を3歳馬として初めて制覇し、今年の春にはオーストラリアでGI勝利も果たした例もあるように、クラシック(※)ではないが、興味深い一戦となりそうだ。
※牝馬戦線=桜花賞(阪神・芝1600m)、オークス(東京・芝2400m)。牡馬戦線=皐月賞(中山・芝2000m)、ダービー(東京・芝2400m)、菊花賞(京都・3000m)

 ここまでの春のクラシック、牝馬の桜花賞、牡馬の皐月賞で戦前の話題を集めていたのは、ともに無敗馬の存在だった。そして今週のNHKマイルカップでも、無敗馬が、主役の一頭として注目を集めている。3戦3勝で牝馬限定GIII・フラワーカップ(3月21日/中山・芝1800m)を制した外国産馬アルビアーノ(牝3、木村哲也厩舎 父Harlan's Holiday)だ。一時は桜花賞やオークスの有力候補に数えられたが、矛先を3歳マイル王決定戦に絞ってきた。

 アルビアーノは年が明けてすぐの1月5日の新馬戦(中山・芝1600m)でデビュー。常に余裕残しで、楽に逃げ切って、ここまで連勝を伸ばしてきた。すでに2戦目の500万下条件戦(2月15日/東京・芝1400m)で、今回より短い距離ではあるが、東京コースも経験済み。続く3戦目のフラワーカップも、初の1800mをまったく意に介さないかのレースぶりで、後続を寄せ付けずに勝利している。

 2戦目で4着に下したダイトウキョウ(牡3歳、父マンハッタンカフェ)は、2歳時のからまつ賞(東京・芝1400m)で、後にGI阪神ジュベナイルフィリーズ(阪神・芝1600m)を制すショウナンアデラと0.1秒差の2着と接戦しており、NHKマイルカップの前哨戦であるGIIニュージーランドトロフィー(4月11日/中山・芝1600m)でも、6着ながら勝ち馬から0.4秒差だった。

 3戦目のフラワーカップで下した3着のディアマイダーリンは、続くGIIフローラステークス(4月26日/東京・芝2000m)で2着としている。このフラワーカップの勝ち時計1分49秒4は、過去20年のうち中山競馬場で行われた同レースの中で5番目に速いもの。6回ある1分49秒5以内の決着のうち、02年のスマイルトゥモロー、05年のシーザリオ、06年のキストゥヘヴン、08年のブラックエンブレムの4頭がGIを制している比較からも、格の面でも見劣りはないと言える。

 また、NHKマイルカップは、マイルを超える距離経験が大きなアドバンテージとなる傾向にある。登録馬のうち、1800m以上の重賞を勝っているのはこの馬のみ。97年にも、同じ牝馬でフラワーカップの勝ち馬シーキングザパールが、このレースを制している。データ面も大きくこの馬の勝利を後押ししていると言えるだろう。

 しかし、アルビアーノの実力を認めつつも、ここで勝ち切ることに疑問の声も上がっている。

「牝馬の中ではトップクラスの能力を秘めていますが、牡馬相手に府中マイル戦を逃げ切るのは至難の業です」

 そう語るのは、デイリースポーツの豊島俊介記者だ。確かに、これまでの19回で牝馬は3勝を挙げているが、逃げ切り勝ちは一度もない。さらに、牡馬を含めても逃げ切り勝ちは昨年のミッキーアイル、12年のカレンブラックヒルの2頭のみで、いずれも圧倒的なスピードで押し切ったものだった。

 思い出されるのが96年の第1回、先行力を武器に3戦無敗の牝馬ファビラスラフィンも1番人気に推されながら、迎えたこのレースでは直線でパッタリと止まり、14着に敗れていることだ。

 アルビアーノが3戦いずれもスタート、あるいは道中から「逃げ」の形になった脚質については、フラワーカップのレース後に、気性面によるものではなく、他の馬とのスピードの違いであることを、木村調教師、柴山雄一騎手ともに強調していた。

「逃げなければダメな馬だとは思っていないし、なんなら他の馬にハナに立ってもらって、速いペースで引っ張ってもらうような形でも構わない。むしろその方がこの馬の力を発揮できるかもしれない」

 という木村調教師の言葉からも、決して一介の逃げ馬ではないことが伝わってくるが、逃げることで他馬のプレッシャーを受け続けたくないという本音も垣間見える。

 さらに豊島記者の指摘は、レースぶりだけでなく、陣営のビッグレースでの経験・実績についても及ぶ。

「木村師は今後有望な新鋭トレーナーですが、まだGIで実績を残していませんし、人気馬でGIに臨んだ経験がないのが気がかりです。先日の桜花賞でも、同じようにまだG1実績のない大竹厩舎が断然1番人気のルージュバックで辛酸をなめました(9着)。ジョッキーもそうですが、名手や名トレーナーは誰もが人気馬で苦い思いを経験し、それを糧にしてステップアップしていくもの。馬券を買う側からすれば、今回が"買い"ではなく、ここで人馬とも厳しさを味わってから、次回以降で勝負したいと思っています」

 果たして無敗のままマイル女王の座に就くのか、GIの壁に弾き返されるのか、展開面も含めたそのレースぶりに注目だ。

土屋真光●取材・文 text by Tsuchiya Masamitsu