「TVタックル」での発言が物議を醸している

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 元衆院議員の東国原英夫氏の発言をきっかけに「花粉症産業の陰謀」をめぐる議論が巻き起こっている。

 花粉症に悩んでいる人々の間では、その最大の原因とされる「スギ」の植林をやめてほしいとの意見が出ているが、東国原氏は「花粉症産業で儲けている人もいる」「ウラで圧力がかかる」と主張。花粉症患者を生み出すことで利益を上げている業界が存在し、その圧力によってスギの植林をやめられない状況になっていると示唆したのだ。

国家主導で「花粉症患者」を量産!?

 この発言が飛び出したのは4月6日に放送された「ビートたけしのTVタックル」(テレビ朝日系)。番組では「スギ植林」の是非が議論された。日本にスギが多い理由としては、戦中・戦後に軍事物資や復興のため樹木が大量伐採され、山の地盤がもろくなったことで災害が発生した経緯がある。政府は「成長が早い」「まっすぐな材木になる」との理由でスギの大量植林に乗り出し、現在も34億円という補助金を使って毎年1500万本ものスギが植えられている。

 この状況に参院議員の山田太郎氏(日本を元気にする会・政調会長)が「スギを植えても花粉症の原因になるだけ。いいことがない」「スギの植林で儲けている人たちがいる」と主張した。

 それに対して自民党の参院議員・山田俊男氏は「スギは日本の木造建築に適している」と反論。山田俊男氏は自身も花粉症に悩んでいるが「無花粉・少花粉のスギに代えれば大丈夫」とも語った。

 東国原氏が知事を務めた宮崎県はスギ丸太の生産量日本一で知られる。「国民の声を聴いていない」と知事時代の怠慢を指摘された東国原氏は「努力していこうとはしている」としながらも「スギ植林をやめると木材自給率が下がる」と指摘。さらに「花粉症で儲かっている人もいる」とし、無花粉・少花粉のスギに代えようとすると「裏で圧力が掛かる」と気になる発言をした。

 すぐさま山田俊男氏が「(圧力は)一切かかってない」と否定したが、もし東国原氏の発言が事実ならスギ植林によって全国民の30%ともいわれる大量の花粉症患者を生み出し、その関連産業を潤わせていることになる。これに一部ネット上では「国家的な陰謀」「花粉症は国家主導で増やしていたのか」などと大騒ぎになったが……。

実際には圧力をかけるほどの「旨味」なし

「政府は2015年度から無花粉・少花粉のスギを奨励し、植え替え事業に補助金を出す方針を打ち出しています。動きが遅いという指摘こそあれ、陰謀とは無関係でしょう。圧力があるとすれば花粉症薬やマスクのメーカーからですが、製薬会社にとって花粉症薬は売り上げのごく一部でしかなく、マスクも程度が知れている。そのくらいで自治体に圧力をかけるのかは疑問ですね」(製薬メーカー関係者)

 無花粉スギは、突然変異体として1992年に偶然発見された歴史の浅い品種である。スギの全体量から考えると現在の出荷量は非常に少なく、普及後に自然界にどんな影響があるかは定かでない。そのため植え替えには慎重になるべきとの意見があり、それが「反対派」「圧力」との見方をされてしまう部分もあるようだ。

 しかし、東国原氏が全国ネットで「花粉症で儲けている人たちから圧力がある」と言ったのは事実。我々にはうかがい知れない闇が存在するのか、それとも単なる「陰謀論」でしかないのか、何とも判断しづらいところだ。

インフルエンザや虫歯も医薬業界の陰謀?

 これに限らず、医薬業界の「陰謀論」は多い。

 その代表例といえるのがインフルエンザのワクチン。毎年のように国家が新型インフルエンザの脅威をあおり、ワクチンの接種を呼びかけているが、実際は効果がないという説がある。ワクチンは無意味どころか副作用すら生み出し、それを利用して病院と製薬メーカーが莫大な利益を得ているという。近ごろ一部メディアでも「WHO、インフルエンザはワクチンで予防不可と結論」などと報じられ、陰謀論が再燃していた。

「そもそもワクチンは完全に感染を予防するものではない。インフルエンザにはさまざまな型があり、その流行予想が外れれば効果が薄れる。それでも予防に最も効果的であるのは間違いなく、一部メディアの記事に反してWHOがホームページ上に記載しているほど。また、重症化の抑制という観点でもワクチン接種はメリットが大きい」(前同)

 ワクチン接種で病院や製薬メーカーが大儲けしているというのも「都市伝説」だと指摘されている。

 接種に際しては念入りな問診が必要で、仕入れ値も安いものではなく、病院側が巨額の利益を得られるほど効率的ではない。また、製薬メーカーにしても昨年(2014年)に欧州最大手の製薬会社「ノバルティス」がインフルエンザワクチン部門の売却を発表したことを考えると、とても「金のなる木」とは思えない。

陰謀論の多くが“雑”な言説に終始

 もう一つ、陰謀論としてポピュラーなのが水道水への「フッ素」添加の是非だ。フッ素の化合物を水道水に入れることで虫歯の劇的な予防効果が期待できるとされ、実際にアメリカやオーストラリアの一部で導入されている。だが、日本をはじめとした多くの地域では実現のメドが立っておらず、これが「虫歯がなくなったら困る歯科業界が圧力をかけている」との説を生み出した。

 しかし、日本ではむしろ歯科業界団体がフッ素の添加を「優れた予防効果がある」として政府や自治体に推奨しており、その時点で論理が破綻している。

 また、フッ素に知能障害などを生み出す作用があるとし、共産主義者が国家を混乱させるために添加を画策しているとの説も昔からあるが、大半の左翼系団体は「国民の選択の自由を奪って強制的に添加するべきではない」として添加に反対しており、根拠も理屈もロクに定まっていない雑な陰謀論であることが分かる。

 実際のところ、フッ素の添加をめぐっては国民の選択の自由との兼ね合いや、水道業界団体が「人為的な摂取は健康上の問題がある」との見解を示したことなどが論点となっており、歯科業界が困るなどという話は存在しない。

 センセーショナルな陰謀論は耳目を集めやすいが、刺激的な意見ほど鵜呑みにせず疑ってかかった方がいいようだ。

(取材・文/佐藤勇馬 Photo by Sanjo via Wikimedia Commons)