横山秀夫『64(上/下)』(文春文庫)。2012年「週刊文春ミステリーベスト10」及び「このミステリーがすごい!」で1位を獲得した。

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今夜22時からスタートするドラマ『64(ロクヨン)』(NHK総合)。
原作は横山秀夫の同名小説(文庫上 /下)だ。

昭和64年。
D県警管轄で起きた、翔子ちゃん誘拐殺人事件。通称「ロクヨン」。身代金を奪われたうえに犯人を取り逃がし、人質が死体で見つかる最悪の結末となった。解決の目処がつかぬまま時は流れていく。
そして平成14年。
ロクヨン時効間近となったD県警が『64』の舞台である。

主人公・三上義信はD県警の広報官であり、「ロクヨン」にも関わった元刑事。
『64』の見どころは三上を悩ませる3つの「板挟み」だ。

■警察広報と記者クラブ
三上が所属する広報部では、伏せたい情報をもつ警察と、全てを知りたがる記者たちが対立している。
交通事故の加害者を「妊婦であるため」として匿名で発表したD県警広報。匿名にした理由に納得がいかない記者たちが猛反発。本部長宛に抗議文を出す出さないの騒ぎにまで発展してしまう。
その1週間後、ロクヨンの時効に合わせて、警察庁長官が遺族を訪問することになっていた。記者クラブは長官会見のボイコットを通達。もしボイコットされれば本庁とD県警の関係も危うくなってしまう……。

■刑事部と警務部
事件の捜査を担当する刑事部と、事務を務める警務部の間も穏やかではない。
ロクヨン時効に合わせた長官視察には刑事部が反発。ロクヨンを解決できないD県警の刑事部に、警察庁の人間を送り込むという情報が入ったためだ。刑事部のロクヨン関係者も固く口を閉ざしてしまう。
警務部の広報官としては長官視察は成功させなければならない。三上は「元刑事の広報官」なので、刑事部と警務部の間に挟まれてしまう。

■仕事と家庭
三上の娘・あゆみは失踪している。自分の顔は父親に似て醜いと思い込んでしまう「醜形障害」だった。三上に美容整形を反対され、家を飛び出してしまった。
3ヶ月が経ったある日。三上の家に無言電話がきた。しかも1日に3度。妻・美那子はあゆみからの電話と思い込み、再び電話を待つために家から一歩も出なくなってしまう。

数々の警察小説を書いてきた横山秀夫自ら「私が書いた作品の中で最も厳しい立場に立たされた人間」と評する三上。
どこに行っても胃が痛い立場なのだ。
そこにきてさらに、ロクヨンを模倣した誘拐事件が発生する。
刑事部も警務部も本庁もマスコミも、みんな三上に詰め寄ってくる。

ドラマ版『64』で三上義信を演じるのはピエール瀧。
テクノユニット・電気グルーヴのメンバーである(ちなみに電気グルーヴの結成も1989年=昭和64年! )
『あまちゃん』では寿司屋、『軍師官兵衛』では蜂須賀小六、『凶悪』ではヤクザなど、その顔立ちから「ザ・日本」な役どころを演じてきた。
今回のキャスティングも「昭和な顔」にこだわった結果だという。

現在発売中の雑誌『TVブロス』4/18号には「『64』放送直前鼎談」として、ピエール瀧、井上剛(演出)、屋敷陽太郎(製作統括)の鼎談が掲載されている。

「もともと役者のスキルがあるわけじゃないから、なりきるしかないんですよ」と、実際に地方警察に行き、広報官や元刑事の話を聞いたという瀧。
「超しんどいキャラ」の三上を3ヶ月演じたため、だんだん気が滅入ってきたそう。台本が1日30ページになることもあり、共演の柴田恭兵や木村佳乃にも「瀧さん大変だよね、これ」と言われてしまうほど。

鼎談の最後、「将来ぜひまたこの座組で主演していただきたいです」と言われたピエール瀧は「お断りです(笑)」と答えている。

「見てみ?ここ。ずーっと三上さんやってたら眉間のしわが取れなくなって。これはNHKにいい美容整形紹介してもらって治療費を請求しないと(笑)」

昭和と平成のあいだに挟まれた昭和64年。板挟みになる三上と、ドラマ班に挟まれるピエール瀧。『64』はNHK総合で今夜22時から。
(井上マサキ)