4月特集 春競馬、クライマックス(9)

【皐月賞「3強」の勝算(2)リアルスティール編】

 ここ数年、3歳春のクラシック(※)を占ううえで、ディープインパクト産駒(以下、ディープ産駒)は無視できない存在となっている。例えば、桜花賞では2011年から4年連続でディープ産駒が優勝。オークスも2012年にジェンティルドンナが戴冠した。牡馬にしても、2012年にディープブリランテが、一昨年はキズナが日本ダービーを制した。昨年も、勝利にはつながらなかったものの、皐月賞とダービーそれぞれに、複数の有力馬が駒を進めた。
※牝馬戦線=桜花賞(阪神・芝1600m)、オークス(5月24日/東京・芝2400m)。牡馬戦線=皐月賞(4月19日/中山・芝2000m)、ダービー(5月31日/東京・芝2400m)

 今年の3歳世代も、牡馬はディープ産駒の前評判が高かった。事実、朝日杯フューチュリティS(以下、朝日杯FS。2014年12月21日/阪神・芝1600m)は、ダノンプラチナ(牡3歳)が制して2歳王者に輝いた。さらに、シャイニングレイ(牡3歳)とリアルスティール(牡3歳)がデビュー2戦目で重賞を制覇。ポルトドートウィユ(牡3歳)とアヴニールマルシェ(牡3)が重賞で2着と好走するなど、今年もディープ産駒がクラシック戦線を席巻すると思われた。

 ところが、弥生賞(3月8日/中山・芝2000m)を皮切りに、クラシックの前哨戦が本格化すると、その勢いがパタッと止まった。トライアル戦で結果を残せなかったうえに、脚部不安や賞金不足から、皐月賞参戦を諦める馬が相次いだ。その結果、皐月賞出走予定のディープ産駒は、ダノンプラチナとリアルスティールの2頭のみ、という誰も予想しえなかった事態となった。

 そして、絶対的な主役の座も他の産駒に譲ることになってしまった。が、クラシックは産駒の数で勝負するわけではなく、前哨戦の結果がそのまま反映されるわけでもない。ダノンプラチナにしろ、リアルスティールにしろ、ディープ産駒初の皐月賞制覇が見込める実力馬である。終わってみれば、「今年もやっぱりディープ産駒が強かった」という話になってもおかしくない。

 とりわけ、期待されるのは、リアルスティールだ。2戦目で重賞の共同通信杯(2月15日/東京・芝1800m)を勝ったあと、トライアル戦のスプリングS(3月22日/中山・芝1800m)では苦杯(2着)をなめたが、それは本番への余力を残してのもの。レース後、矢作芳人調教師も、「今回は(皐月賞を見据えて)お釣りを残した仕上げだった」と語っている。それでいて、勝ったキタサンブラック(牡3歳)にクビ差まで迫ったのだから、本番への希望は膨らむばかりだ。

 また、獣医師の資格を持つ中日新聞の若原隆宏記者によれば、共同通信杯からスプリングSまでの間にも、リアルスティールの体のつくりがいい具合に変わってきたという。

「リアルスティールの体のバランスは、胴がゆったりしているわりに、背中がきゅっと締まっていて、もともと体幹のバネを感じさせる素晴らしい馬体でした。それが、さらに首さしがゆったりして、よくなったように思います」

「首さしがゆったりする」ということは、どういう効果があるのだろうか。若原記者が続ける。

「まず『首さしがゆったりする』ということは、首の骨より下の部分に奥行きができるということ。それは、胸郭(胸部の骨格)の広がりにつながります。なお、競走馬は胸郭の広さによって、スタミナを推し量ることができます。つまり、首さしがゆったりしてきたということは、スタミナ面の向上が期待できるということです。

 さらに『首さしがゆったりする』のは、気道が広くなっているということ。ならば、"換気能力"は着実にアップしていると考えられます。言い換えれば、それだけエンジン能力が上がっている、ということです」

 そもそも全身がバネのような馬体をしていて、素質の塊(かたまり)だったリアルスティール。その中に、さらにパワーアップされたエンジンが搭載された、ということか。はたしてその能力が全開となった姿など、今はとても想像できないが、スプリングSでも確かにその一端は示している。

 それは、11.2秒というラップを刻んだ、レースを通して最も速かった残り400m〜200m地点の走り。そこでリアルスティールは、そのレースラップをさらに上回るタイムで前方へ進出していったのだ。そのうえで、終(しま)いにもうひと伸び見せて勝ったキタサンブラックに迫った。本番での上積みを考えるまでもなく、そのレースぶりから皐月賞での好走が十二分に予感できた。

 共同通信杯を勝った時点で、「完成まで、まだ八分の体」とリアルスティールを評していた矢作調教師の言葉は、決して大言ではなかった。それどころか、それ自体「過小評価だったかもしれない」と前出の若原記者が言う。

「なにしろ、矢作調教師自身が『ここに来て、(リアルスティールの能力の)天井だと思っていたところが天井ではなかった。想定していた以上に奥行きがあった。どこまでが天井なのかわからないので、現状では何分の出来とか言えないぞ』と話していたんです。これは、想定より素質評価を上方修正しなければならないと考えている証拠。この先、リアルスティールがどこまで強くなるのか、ちょっと想像できませんね」

 昨年リーディングトレーナーを獲得した矢作調教師ですら、量りかねるほどの"器"の持ち主だったというリアルスティール。まずは牡馬クラシック第1弾、皐月賞でそのベールを脱ぐ。

土屋真光●文 text by Tsuchiya Masamitsu