どん底からの覚醒 スミヨンの手綱さばき

2019エリザベス女王杯 クリストフ・スミヨン騎手騎乗のラッキーライラックが優勝 写真:山根英一/アフロ
GIの大舞台で見せた"名手"というべき手綱さばき
競馬界には「馬7:騎手3」という格言がある。
レースの結果を左右するものとして馬の実力が7割、騎手の実力が3割と言われているが、時に騎手の腕が最大限に生かされて勝利、好走したといういわゆる"神騎乗"と呼ばれるレースも存在する。
そんな騎手のスゴ技をテレビ東京スポーツYouTubeチャンネル「競馬大好きママ のスナック美馬女 #3神騎乗」の動画内で数多く紹介されていたが、惜しくも動画内で紹介されなかった騎手たちの神騎乗レースをここでは紹介。
【第3選】C.スミヨン&ラッキーライラック(2019年 第44回エリザベス女王杯)
フランスの名手として名高いクリストフ・スミヨンの神騎乗。
世界トップクラスの腕を誇るトップジョッキーで日本にもしばしば短期免許で遠征にやってきてはファンを魅了する騎乗を見せているが、日本で見せた彼の神騎乗を挙げるとすれば、やはり2019年のエリザベス女王杯だろうか。
無敗で阪神JFを制し2歳女王に君臨したラッキーライラックだが、桜花賞以降は勝ち星を挙げることができず、このエリザベス女王杯まで7連敗。
春のヴィクトリアマイルでは1番人気に支持されるも4着に敗れるというまさにどん底の状態にいた。
そんな実力馬の復活を願って初コンビを組むことになったスミヨンはこのレースでラッキーライラックとともに絶好のスタートを切ると、すぐにインコースの中団に付けて、前を行く1つ下の世代のオークス馬ラヴズオンリーユー、秋華賞を制したばかりのクロノジェネシスらを見ながら脚を溜めた。
1000mの通過が1分2秒8というややスローな流れを追走しつつ、直線を迎えたラッキーライラックは最後の直線に入ってもインコースに張り付いたまま。
前を行くクロコスミアに外からラヴズオンリーユー、センテリュオらが猛追する中、内でジッとしていたラッキーライラックはスミヨンの鞭にすぐさま反応。
一途なまでにこだわってきた最内をまっすぐに駆け上がってきた。
馬群に揉まれ、進路を取れなくなる危険性を考えると、外に持ち出したくなる場面だったがスミヨンは最後まで最短距離を走れるインコースを選択。
これが功を奏したか、ラッキーライラックはきれいに馬群を捌いて抜け出し、残り100mのところで逃げるクロコスミアを捕えて先頭でゴール。
1年8ヵ月ぶりに勝利の美酒に酔いしれた。
ちなみにスミヨンのこの騎乗が利いたか、ラッキーライラックはこの後、引退までにGIタイトルを2つ積み重ね、GI4勝を記録してターフに別れを告げた。
もしあの時、スミヨンに出会っていなかったらその後の競走成績はどうなっていただろうか。
■文/福嶌弘