アラン・グリーンスパンFRB(米連邦準備制度理事会)議長は先週16-17日の2日間にわたって、上院銀行委員会と下院金融サービス委員会で、年2回の恒例の金融・経済報告を行った。その中で、市場が注目したのは、同議長が利上げペースを速めるかどうかについて、何らかのヒントを示すかどうかだったが、前回2月2日の6回目の利上げまで使われていた“measured(徐々にゆっくりとした)”利上げという文言が、同議長の口からは一言も出なかった点に注目が集まっている。 

  昨年6月30日に2000年5月以来、約4年ぶりに利上げを再開し、それ以来、2月2日までの6回の利上げは、きっちり0.25%ポイントの刻みで実施され、政策金利であるFF(フェデラル・ファンド)金利の誘導目標は過去最低の1%から2.5%まで引き上げられてきた。次回のFRBの金融政策決定会合であるFOMC(米連邦公開市場委員会)は3月22日に開かれる予定だが、市場では今回も0.25%の利上げが行われると見込んでいる。

  ただ、一部のアナリストの中には、その次の5月3日のFOMC会合で再度、0.25%ポイントのペースで利上げをするかどうかの転換点が来るのではないかという見方がある。その見方の根拠となっているのが、グリーンスパン議長が、2日間の議会証言で、「なぞ」と発言した珍しい金融事象だ。

  同議長は、議会証言のために用意したテキストの中で、「金融緩和政策の解除の方針に沿って、これまで6回の利上げを実施、FF金利をこれまでかなり引き上げてきたが、依然、(短期金利は)どうみてもかなり低い」と述べ、利上げ継続の意向を鮮明にしたが、その一方で、「ここ数ヵ月、長期金利が低下傾向にある。たとえば、10年国債の利回り(長期金利の指標)は、1年ごとのフォワード・レート(将来のある期間に対応する金利について、現時点で予約可能なレート)の10年連続の平均値と考えられる。最初の1年目のフォワード・レートがFF金利に連動して上昇すれば、たとえ期先のフォワード・レートが横ばいになっていても、10年国債の利回りは上昇していくはずだ」と首をかしげたからだ。

  実際、10年国債の利回りは、昨年6月の利上げスタート時点で4.7%だったが、これまでに1.5%ポイントも利上げしたにもかかわらず、議会証言のあった16日時点で4.16%というように、長期金利は低下してきている。もっとも、グリーンスパンの発言後、米国の債券市場は急落し、債券価格と反対方向に動く利回りが、4.265%まで上昇したが、それでも今年初めの水準に戻った程度で、まだ、かなり低い水準であることは確かだ。市場では、グリーンスパンが、長期金利がなかなか上昇してこないことを指摘したのを受けて、利上げのペースを上げる可能性があると見て、素直に反応した。

  また、議長自身も、議員との質疑応答の中で、どのくらいインフレがここ数ヵ月で進むかによって、FRBが利上げのペースを速めるか遅くするかのスピード調整が必要になる、と指摘。これは、もちろん、同議長が、「われわれの判断は、経済が堅調なペースで成長している」と言っているように、米景気の強さから見て、利上げのペースを減速することは考えにくい。他のFRB幹部も利上げのスピード調整の必要性を言い始めており、今後、発表される経済データを注視するとも言っており、利上げのペースが速まる可能性が高まっているようだ。

  ところで、同議長はなぜ長期金利が低下しているのか、いくつかの仮説を挙げて説明している。一つは、市場参加者が原油の高騰を背景に、先行きの米国の景気に懸念を持っているという見方。しかし、同議長は「この説では、今の株式市場の上昇やクレジット・スプレッド(銀行貸出に対するリスクプレミアム)の縮小傾向と整合性が取れない」と否定的だ。