「産業の再生」
復興の鍵握る観光業

【ライブドア・ニュース 28日 東京】 ─ 石原慎太郎都知事は14日の定例会見で、「あの島の周遊道路はかなり起伏に富んでいて怖い。これは逆に腕に自信のあるライダーにとっては、一つの魅力の場所。英国のマン島は、島を挙げてオートバイレースを協力している。三宅島でレースをやると、若いライダーが集まって人気になると思うのですがね」と島の観光について持論を展開した。

 三宅島の主要産業は、農業と観光。観光協会 によると、平成11年には年間約8万人の観光客が来島し、産業規模は20億円。協会所属の宿泊施設は、約50軒あった。イルカや珍鳥と親しむエコツーリズムの拠点として注目を浴び、観光収入が伸び始めた矢先に、雄山は噴火した。

かさむ再開資金「ダメならアウト」

 島西南部の阿古地区でダイビングショップと民宿を夫婦で営んでいた沖山厚子さん(42)は、「夏の観光シーズンに備えて、新品のダイビング器具を買い揃え、宿舎も新築したばかりだった」と避難当時を振り返る。昨年11月、沖山さんは先行帰島し、防災工事の作業員向けの民宿を再開した。「再開資金も自己負担。これでダメなら、本当にアウト。覚悟している」と真剣なまなざしで語った。



帰島を断念した赤木一之さんと同夫人。(撮影:常井健一)
 一方、島東南部の坪田地区でホテルを営んでいた赤木一之さん(47)は、帰島を断念した一人。かつての宿舎は、侵入したネズミに荒らされ放題。避難生活の長期化を見越して3年前に品川区で開店した居酒屋の経営も抱えている。赤木さんは、店のカウンター越しに「2人の子どもは今年受験。これ以上の借金は無理。帰りたくても帰れない」と漏らした。

 村は、住民の帰島を優先するため、島外者による観光目的の入島を自粛するよう呼びかけている。当面、観光客は期待できない。

島の魅力、枠超えて売り込む

 だが、経済再生には、観光業の復活が不可欠だ。



溶岩や火山灰を利用した湯飲みやグラスを手にする長谷川一也さん(左)と深澤文夫さん。(撮影:常井健一)
 地元の有力商工業者6社は昨年4月、島の経済再生と雇用創出を図る「三宅島産業再生研究会」を発足させた。既存の商工業団体の垣根を越えた取り組みだ。溶岩や火山灰を利用した商品の開発や地域性を生かした観光プランの開発などを手がける。同会事務局長の深澤文夫さんは、「島が一体となって、魅力を売り込みたい」と話す。

 同研究会では、幻の島焼酎「雄山一(おやまいち)」を復活させようと、鹿児島県酒造組合と提携して動き始めている。「雄山一」は、三宅島産の芋と米麹で醸造した焼酎で、島内の酒造会社が昭和2年から生産、約8年前から後継者不足で生産中止していた。

 伊豆諸島の焼酎は、江戸末期に八丈島に流された薩摩商人・丹宗庄右衛門が、サツマイモと醸造設備一式を取り寄せて、芋焼酎を作ったのが始まりだという。同会会長の長谷川一也さんは、「地域に親しまれてきたお酒。焼酎ブームにあやかって、観光の活性化につながれば」と意気込む。

 同じ伊豆諸島の八丈島では、商工会や観光協会が手掛ける「島おこし」にソフトバンク社が協力、離島で初めてブロードバンド回線が、昨年引かれた。孫正義・同社長が島のイベントに参加するなど「どこでもネットが出来る島」として、島の観光や産業を積極的に売り出している。

 深澤事務局長は、「三宅の再生にも理解を示してくれる企業がいれば」と話す。【了】

ライブドア・ニュース 常井健一記者

特集・三宅帰島(1) 「リスク・コミュニケーション」

特集・三宅帰島(2) 「交通インフラ」

特集・三宅帰島(4) 「災害弱者」

特集・三宅帰島(5) 「くらしの課題」

特集・三宅帰島(最終回) 「支えたもの」