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男の退職、その後はどうなる?(下)

【PJ 2007年01月06日】− (上)からのつづき。わたしが決めた辞職とは形のみ、「実質的な退社」の選択は誤ってなかったが、針路を決めた後、わたしは奇病に襲われた。異様な目まい、喘息のような発作、耳鳴り、血圧の乱高下…恐怖の日は数カ月間に亘って続いた。だが、数度に亘る医師の判断は「極めて正常」であった。大学院進学への提出論文の作成は、連日ホノルルのコンドミニアム39階の部屋で夕陽を浴びながら済ませた。医師が首をひねった奇病は跡形もなく消えうせ、逆に血圧は正常になっていった。わたしは勝った、会社に勝ったのではない。自らの戦いに勝ったのだと心からそう思った。「男の退職」は実に楽しい日々になっていった。

 とはいえ、たかが地方商社の役員、退職金に多くを期待するべくもなかったが、想像以上の小額を手にしただけである。住宅ローンなどの「借金が清算できればオンの字」だと家内を説得した。彼女がどう考えたか聞かなかった。多分不満であったろうし、この男に今以上の期待を持てないと諦めていたのかもしれない。「カネは天下の回りモノ」とタカを食ってか、人生どうやらカネは勝手に入ってくるものだ。生活の質も、孫子を食事に連れてゆくことも、旅から旅へと出歩くことも、現役時代となんらの変わりはない。貯蓄の減少など家内に伝える必要はない。「女房子どもにカネの心配はさせない」という心意気、何時まで続くか先の心配などしない。心配しても始まらない。

 大学院に誘ってくれた友人のT教授は、「学内で話題になっていますよ、アナタのことが」と激励をしてくれた。中央大手から地方紙に到るまで、取材の申し込みが殺到した。60歳で自己退職を申告、国立大学の院に進むのが意外だったのであろう。会社での公式な慰安会はなかったが、100数十名の後輩が喜んでくれたのが嬉しかったし、とりわけ若手社員の出席の多さがわたしへの最高のプレゼントであった。

 あれからもう7年、月日の経つのは早い。わたしは自身の生き方に極めて満足である。知人も友人もこぞって「アナタだから出来た」という。それはそれでいい。だが、退職する男はすべて「アナタは出来るヤツ」だと思っている。「幸せ基準」の設定の如何だけがカギのだ。わたしは常に「不幸基準」を高めに設定する。現金、有価証券、不動産の有無。家族の疾病、家庭内不和…それらをいくら上げ募っても人間、満足指数は定まらない。いや自身が健康で居られるかどうかなど、わかるはずがない。生きていれば幸せ、死ねば元も子もなくなる。健康管理など心の持ちよう、気の入れ方だけなのだ。わたしは宗教には無縁な男である。現代の宗教の有り方には常に疑義を感じてきた身、初詣はしても八百万の神々の正体は「人間」だと熟知している。

 いくばくかの宗教心が芽生えるのは、病に倒れ、あるいは死んで行った友人のことを思うときだけだ。ある男は懸命に生きようとし、暗い精神病院の一室で米飯をノドに詰まらせた。娘の結納を待ち望んだ男はその日の早朝、心臓発作で逝った。これ以上精神の体力も頑健な男は、出世の道をうつ病で失ったし、大好物の日本酒をやりながら楽しい一夜を過ごすはずの男は、担当する大手企業の唐突な倒産で自らも倒れた。だれも皆良い男たちばかりであった。彼らの死を無駄にしたくない。それこそが彼らへ供養、そう思って来た。先のことなど神ならぬ身、知るよしもない。ただ生きるだけ・・・。そう思い続けた7年。

 世は新年、今日から仕事始めであったな。はて、何時まで続くかわが旅。計画的に生きられる人間がいれば幸せ。だが大抵は「まさか」に戸惑うだけ。明日の心配より今夜の食事のことを案じれば良い。気軽に生きようぜ、同輩諸氏。【了】

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※この記事は、PJ個人の文責によるもので、法人としてのライブドアの見解・意向を示すものではありません。また、PJはライブドアのニュース部門、ライブドア・ニュースとは無関係です。

パブリック・ジャーナリスト 今藤 泰資【 茨城県 】
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