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野依先生、ちょっと待ってください!
2006年12月27日12時58分 / 提供:PJ
【PJ 2006年12月27日】−
安倍晋三首相の肝いりで設置された教育再生会議から、とんでもない発言が飛び出した。「塾禁止論」である。しかも発言の主は、ノーベル賞受賞者である野依良治座長である。野依座長は、「塾は出来ない子が行くためには必要だが、普通以上の子どもは塾禁止にすべきだと思う」と述べた。
これは、公立小学校で放課後に児童を指導し「祭り」「演劇」「ダンス学芸会」などを体験させる「放課後子どもプラン」に関する議論の中のことであり、「塾をやめさせて、放課後子どもプランをやらせないといけない」というのが、発言の趣旨である。また「我々のころは、部活もやって、その後、休憩してご飯を食べて、勉強していた。塾も行っていない」などと述べておられる。
正直言って、戦後の塾や学校制度の歴史についても、子供を取り巻く現状についても、何もご存じない方のように見える。「塾は出来ない子がいくためのもの」というのは、無知もはなはだしい。
進学塾は、かなり昔からあった。戦前の旧制中学にしても大変な難関であり、尋常小学校の勉強だけでは追いつかず、何らかの補習が必要であった。戦後も、旧帝大などの難関に合格しようと思えば、よほど優秀な生徒以外は、塾に通わざるを得なかった。もっとも、当時は高等教育を受ける者はまだ少数派であり、それ以外の大多数は就職したのである。中卒が「金の卵」と呼ばれた時期もあり、進学派と就職派の棲み分けは出来ていたのだ。
一方で、高校進学率が100%に近くなり、大学進学率も上昇するにつれ、問題も生じてきた。それが、いわゆる「落ちこぼれ」である。しかしこれは、「落ちこぼれ」がこの時初めて生じたというわけではない。それまでは、勉強の出来ない子、勉強に向かない子は、胸を張って就職すればよかったのだが、ある時点からそういう普通の子までが、進学競争に巻き込まれるようになったのである。その結果、そういう子供たちをケアするために、補習塾が生まれた。
個人的な経験で言えば、30年くらい前は、小学校で塾に通うのは私立入試を目指す生徒のみ、中学校でもどちらかといえば進学志望の生徒であり、補習のためにわざわざ塾に通う生徒はいなかったように思う。というのは、その頃の塾はまだ、一クラスが10人以上いる一斉型授業が主流であり、学校の授業とさほど変わらなかったからだ。そういうスタイルでは、勉強の嫌いな子はやはり居場所がない。
それが大きく変わったのは、20年位前からであろうか。学生のアルバイトを大量採用し、少人数制や個別指導を売り物にする、フランチャイズ式の学習塾が次々と誕生した頃である。このスタイルだと、先生一人に生徒は数人程度であり、わからないところも丁寧に教えてくれるし、友達感覚でおしゃべりも楽しめる。これが大きくヒットした。現在でも、業界の中でシェアを伸ばしているのは個別型のスタイルである。
このようにして、出来る生徒は進学塾に、出来ない生徒は補習塾というように、あらゆる生徒が何らかの形で学習塾に通うダブルスクール制が主流となったのである。その結果、塾が悪玉として槍玉に挙げられることも多くなったが、原因に目をつぶって、結果だけを批判しても仕方がないだろう。
現在の小中学校では、1クラスが40人前後である。その中で、100点をとる生徒から、0点をとる生徒までいる。人間の能力には個別差があるから、これは当然のことだ。かつては、その中で優秀な生徒、たとえば70点以上が上級の学校に進学するというような仕組みであった。それ以外の生徒は就職するか家業を継ぐので、のんびりしたものであった。もちろん、抜群に優秀な生徒も、塾に通う必要はない。灘高から京大に進学された野依教授も、そのクチだったのではないだろうか。
しかし、高校が事実上の義務教育化し、少子化のため大学までが全入となろうとしている状況というのは、0点の生徒から100点の生徒に至るまでを、それぞれのレベルに応じた競争の中に投げ込んだのに等しいのである。そういった社会的要請の中で、学習塾が隆盛を極めているという状況を、きちんと理解せねばならないだろう。
もちろん、学習塾にも、営利企業ゆえの様々な問題はある。しかし、それを安易に批判して、塾を禁止すれば問題が解決するとするのも、短絡的な発想であろう。要は、なぜ子供たちが塾に通わねばならないのかという現実をしっかり見据えて、いまの学校教育に足らざる部分を補っていくことを考えなければ、現実から遊離した空理空論を弄ぶことになるであろう。【了】
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パブリック・ジャーナリスト 宮下 隆二【 兵庫県 】
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これは、公立小学校で放課後に児童を指導し「祭り」「演劇」「ダンス学芸会」などを体験させる「放課後子どもプラン」に関する議論の中のことであり、「塾をやめさせて、放課後子どもプランをやらせないといけない」というのが、発言の趣旨である。また「我々のころは、部活もやって、その後、休憩してご飯を食べて、勉強していた。塾も行っていない」などと述べておられる。
正直言って、戦後の塾や学校制度の歴史についても、子供を取り巻く現状についても、何もご存じない方のように見える。「塾は出来ない子がいくためのもの」というのは、無知もはなはだしい。
進学塾は、かなり昔からあった。戦前の旧制中学にしても大変な難関であり、尋常小学校の勉強だけでは追いつかず、何らかの補習が必要であった。戦後も、旧帝大などの難関に合格しようと思えば、よほど優秀な生徒以外は、塾に通わざるを得なかった。もっとも、当時は高等教育を受ける者はまだ少数派であり、それ以外の大多数は就職したのである。中卒が「金の卵」と呼ばれた時期もあり、進学派と就職派の棲み分けは出来ていたのだ。
一方で、高校進学率が100%に近くなり、大学進学率も上昇するにつれ、問題も生じてきた。それが、いわゆる「落ちこぼれ」である。しかしこれは、「落ちこぼれ」がこの時初めて生じたというわけではない。それまでは、勉強の出来ない子、勉強に向かない子は、胸を張って就職すればよかったのだが、ある時点からそういう普通の子までが、進学競争に巻き込まれるようになったのである。その結果、そういう子供たちをケアするために、補習塾が生まれた。
個人的な経験で言えば、30年くらい前は、小学校で塾に通うのは私立入試を目指す生徒のみ、中学校でもどちらかといえば進学志望の生徒であり、補習のためにわざわざ塾に通う生徒はいなかったように思う。というのは、その頃の塾はまだ、一クラスが10人以上いる一斉型授業が主流であり、学校の授業とさほど変わらなかったからだ。そういうスタイルでは、勉強の嫌いな子はやはり居場所がない。
それが大きく変わったのは、20年位前からであろうか。学生のアルバイトを大量採用し、少人数制や個別指導を売り物にする、フランチャイズ式の学習塾が次々と誕生した頃である。このスタイルだと、先生一人に生徒は数人程度であり、わからないところも丁寧に教えてくれるし、友達感覚でおしゃべりも楽しめる。これが大きくヒットした。現在でも、業界の中でシェアを伸ばしているのは個別型のスタイルである。
このようにして、出来る生徒は進学塾に、出来ない生徒は補習塾というように、あらゆる生徒が何らかの形で学習塾に通うダブルスクール制が主流となったのである。その結果、塾が悪玉として槍玉に挙げられることも多くなったが、原因に目をつぶって、結果だけを批判しても仕方がないだろう。
現在の小中学校では、1クラスが40人前後である。その中で、100点をとる生徒から、0点をとる生徒までいる。人間の能力には個別差があるから、これは当然のことだ。かつては、その中で優秀な生徒、たとえば70点以上が上級の学校に進学するというような仕組みであった。それ以外の生徒は就職するか家業を継ぐので、のんびりしたものであった。もちろん、抜群に優秀な生徒も、塾に通う必要はない。灘高から京大に進学された野依教授も、そのクチだったのではないだろうか。
しかし、高校が事実上の義務教育化し、少子化のため大学までが全入となろうとしている状況というのは、0点の生徒から100点の生徒に至るまでを、それぞれのレベルに応じた競争の中に投げ込んだのに等しいのである。そういった社会的要請の中で、学習塾が隆盛を極めているという状況を、きちんと理解せねばならないだろう。
もちろん、学習塾にも、営利企業ゆえの様々な問題はある。しかし、それを安易に批判して、塾を禁止すれば問題が解決するとするのも、短絡的な発想であろう。要は、なぜ子供たちが塾に通わねばならないのかという現実をしっかり見据えて、いまの学校教育に足らざる部分を補っていくことを考えなければ、現実から遊離した空理空論を弄ぶことになるであろう。【了】
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