クライアントのオフィスでマッサージを行う盲ろう者マッサージ師と「手引き者」の付き添い人。(写真提供:(有)フォレスト・プラクティス)

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働く人たちの仲間に入りたい! けれども、健常者の社会からは見えない壁がある──。目と耳の両方に障害を持つ盲ろう者の就業機会を創出し、障害者の社会参加を促したいというのが(有)フォレスト・プラクティス(東京都文京区)田辺大社長だ。マッサージの国家資格を取得する盲ろう者を企業に派遣する「手がたりのオフィスマッサージ事業」を2006年6月から展開し、東京都が今年度から始めた「東京都障害者職域開拓支援事業」の認定を受けている。その意気込みを聞いた。

 田辺社長は「『障害者は社会のお荷物』などと呼ばれた時期もありましたが、社会全体で障害者の人口は約1割を占めます」と説明し、障害者も社会の一員であることを訴える。そのうち、盲ろう者の数は1万3000人から2万人と言われ、一つの障害を持つだけで大きなハンディなのに、二つの障害を抱える彼らはそんな環境にも負けず、お互いの手の甲を指で叩き合う「指点字」などを通じて意志を伝え合い、社会の一員として働きたいと考えているという。

 障害者の雇用に関する民間企業の法定雇用率 1.8%を目指して、各企業は努力を続けているものの、その進展はなかなか進んでいない。厚生労働省が14日に発表した民間企業の障害者実雇用率(2006年6月1日現在)によると、05年の1.49%から1.52%に上昇したが、同雇用率が1.50%を超えたのは初めてだ。一方、盲ろう者の就労機会は、マッサージ師など一部の分野に限られるため、彼らの多くは盲学校に進学して医学などを3年以上勉強し、マッサージの国家資格試験に挑む。しかし、同マッサージ資格を取得した盲ろう者に就労が約束されているわけではない。

 田辺社長によると、そのような資格とは関連がない「リラクゼーション」や「ボディー・ケア」などのビジネスの台頭で、皮肉にも盲ろう者からマッサージの就労機会が奪われているのが現実という。そんな状況下ではあるが、田辺社長は「民間企業の中には、CSR(企業の社会的責任)の認識の高まりや従業員を大切にしようという経営リスク面から、盲ろう者マッサージ師を企業に派遣するこの事業に関心を示す企業が増えてきている」と手応えを語る。

 市場での競争相手となる他のマッサージ関連企業では、施術中の会話は顧客を惹きつける営業トークの一部として重用されている。しかし、会話を交わすことでマッサージ師の集中力が一時的に落ちるのは明白だ。一方、同マッサージ事業は、施術の質の高さだけで勝負する。つまり、盲ろう者の「耳が聞こえない」「目が見えない」というマイナス点を、全神経を施術に集中させるプラス点としてアピールする。指先で血管や筋肉の位置などを的確に探り当てる施術は、マッサージを受ける顧客から高い評価を受けている。

 現在、同社所属の3人の盲ろう者のうち、1人がクライアント企業を持つ。通勤と会話の伝達の両方を「手引き者」が付き添ってサポートする。「手引き者」の費用を含め、代金は10分間当たり約1500円。一般的な他のマッサージは1000円前後で多少割高といえるが、田辺社長は「社員がリラックスできることで従業員の満足度が上がり、その結果、ハイ・パフォーマンスにつながります。また、社会貢献になるということをアピールして、障害者就業のための社会構造改革に結びつけたい」と抱負を語った。【了】