栃木県栃木市の「永野川緑地公園」で2日に行われた浮上テスト。(提供:安東浩正氏)

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失敗は成功への通過点に過ぎない──。

 太平洋横断飛行に挑戦する高さ50メートル、これまで作られた熱気球としては世界で2番目の大きさという「スターライト号」の浮上テストが2日、栃木県栃木市の「永野川緑地公園」で行われた。燃料のプロパンガスなど総重量6トンを持ち上げるテストは、排気弁周りのナイロンにかかる荷重が計算より大きかったことが原因で、排気弁が開いて空気が抜けてしまい失敗に終わった。しかし、この挑戦に挑む冒険家の神田道夫さん(56)と安東浩正さん(36)の2人に失望の色はない。

 高度約8000─1万メートルで、西から東に向かって時速200キロ以上になる強い偏西風に乗って、50─60時間かけて太平洋を横断しようというこの冒険に挑む2人は、共に植村直己冒険賞の受賞者だ。機長の神田さんは、オーストラリアで2366キロメートルの長距離世界記録飛行(中重量級クラス)やカナダから米国に飛行した際に達成した滞空時間世界記録を持つ。一方、フライトエンジニア役の安東さんは、自転車による冬季アラスカやシベリア横断・縦断達成など、冒険サイクリストとして世界に名高い。

 2007年1月から2月の間の最適な気象条件を待って、15階建てのビルに匹敵する大きさの熱気球で太平洋横断を目指す。熱気球による太平洋横断は、これまで英国人のリチャード・ブランソンさんとパー・リンドストランド(スウェーデン)さんが、1991年に世界で初めて達成したほかに例はない。(ヘリウムガス使用の気球による太平洋横断は、ロッキー青木さんら4人が81年11月に達成)。神田さんは石川直樹さんと04年1月に太平横断に初挑戦し、宮城沖1600キロの太平洋上に着水するという苦い経験を持つ。

 熱気球は、プロパンガスをバーナーで燃焼させて気球に熱を送り込んで浮力を得るだけで、飛行機のプロペラのような推進力を持たない。日本列島上空のジェット気流の流れを正確に予測できるかどうかが、この冒険の成功の鍵を握るため、その予測プログラムの提供を米国海洋大気圏局に依頼し、最適な気象条件に備えて待機するという。目指すはカナダか米本土だが、気流の向きが変われば、アラスカに不時着したり太平洋上に着水ということも充分考えられる。

 高度9000メートル付近の外気温は零下50度以下。頭上でバーナーを燃やすゴンドラ内は零下20度から30度になる。酸素は地上の3分の1で、エベレスト(標高8848メートル)登山などに必要な高所順応の知識が必要とされ、酸素ボンベを利用する。飛行中は、2畳半に満たないゴンドラの中で壁を背に交代で仮眠する。食料はシベリアなどの極寒地食用に使われる動物性ラードや凍らないビスケットで、登山用携帯トイレのナイロン袋に排泄する。

 時速200キロ以上のジェット気流に乗って飛行する熱気球だが、気球そのものは風の中を浮遊しているため案外静かだという。この冒険が成功すれば、「サムライが空から降ってきた」と大きな反響を呼ぶだろうとGSP機器の使用や米・カナダ航空管制係との通信などを担当する安東さんは期待を寄せる。今回の浮上テストの失敗について、安藤さんは「冒険を成功させるためにテストを実施するのですから、失敗があるのも当然です。浮上テストをもう1度行って、本番に間に合わせたい」と抱負を語った。【了】