男鹿温泉の観光案内には、特に「失恋ツアー」の項目はない

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   「失恋ツアー」をめぐって秋田県男鹿市がゆれている。そもそもは寺田典城秋田県知事が男鹿半島を名指しして「失恋した人を対象にしたツアーを行い、『自分の思いより、さらに寂しい土地があるのか』と思ってもらったらどうか」などと発言したのが始まり。地元では「失恋した人をどうやって探すのか」「男鹿のイメージダウンになりかねない」などという声が出ていて、ツアーは暗礁に乗り上げそうになっている。

   男鹿半島は、日本海を一望に見渡せる風向明媚さや、「ゴジラ岩」など奇岩怪石が並ぶ海岸、そして、ナマハゲの祭りなど秋田県を代表する人気の観光スポットだ。

「自分の思いより、さらに寂しい土地がある」という企画

   しかし、冬場の観光客は少なく、2005年8月は663,900人が訪れたのに対し、同12月は43,700人と激減する。そのため、地元観光団体は昔から冬季振興策に頭を悩ませてきた。そんな中で出てきたのが06年7月20日の寺田知事の発言。東北の観光振興をテーマに6県知事が話し合う「第2回東北サミット」でのことだ。

06年7月24日の読売新聞によると、寺田知事は、

   「観光で秋田県が特に弱いのは冬。それなら、秋田だけの『オンリーワン』をやっていこうと考えている。例えば、大きな温泉街がある男鹿半島は、団体客がなかなか来ない」

   と発言。ここまではよかったのだが、こう続く。

   「それならば、日本海のどんよりした雲や地吹雪を売り出し、失恋した人を対象にしたツアーを行い、『自分の思いより、さらに寂しい土地があるのか』と思ってもらったらどうか」

   地元の観光関係者の間で当初は、知事の発言は「一つのアイディア」程度に受け止められ、「失恋ツアー」の具体的な動きはなかったが、しばくして知事側から「あの件はどうなったのか!?」という催促が来るようになり、ツアーを実現する方向で動かざるを得なくなったようだ。

   すると、県内の様々な方面から批判がから出てくるようになった。秋田魁新聞も06年11月23日付けの紙面で「『男鹿半島の最北端で再出発を図ってもらうコンセプト。しかし、失恋した本人にとって余計なお世話という、基本的な感覚が抜け落ちている』とあきれ顔で話した」という地元関係者のコメントを載せている。

「失恋ツアー」を「癒し旅行」に変更

   秋田県産業経済労働部観光課はJ-CASTニュースの取材に答え、

   「知事は観光を活性化させようという強い思いと、日本海の冬のイメージを逆手に取ってみてはどうか、ということであの発言をされました。ただ(失恋した人をどうやって探すのか、など)様々な批判が出るのは当然です」

と話した。男鹿市観光協会では、

   「今回の失恋ツアーの窓口は男鹿温泉郷協同組合がやっていますが、企画が二転三転しているようで、まだこちらには最終報告が上がってきていません。ツアーが話題になって冬場の観光客が増えればいいことだと思います」

   と話した。それではと、男鹿温泉郷協同組合に取材すると、「失恋ツアー」の話題にはほとほと疲れているという感じで担当者はこう話した。

   「長年の課題だった冬季振興を図るという点で、私達にはいい話なんです。ところが失恋ツアーという言葉だけが一人歩きしてしまい、批判めいた言葉が寄せられているんです」

   今年の秋田県は親の子供殺し事件などでイメージがよくない。さらに「失恋」が重なるとなれば、「秋田のシンボル、男鹿にそんなイメージを植えつけるのはいかがなものか」という意見が、県民からたくさん寄せられているというわけだ。

   「失恋ツアーというのはニックネームにすぎません。現在は様々な企画を検討していますが、そのなかで『癒し旅行』という方向で企画が固まりそうです。県内外から男鹿に来ていただいて、癒されて暖まり元気になってもらう。そんなツアーになります」

   07年2月からゴールデンウィーク前にかけ、30台の女性をターゲットにしたツアーになるのだという。でもなんだか、これだと「フツー」すぎる企画のような気もする。