金融庁も「団信」に注意喚起

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   消費者金融が保険料を負担し、借り手が死亡した場合は保険金を受け取り、債権回収に充てる「消費者信用団体生命保険」(団信)を廃止する動きが目立っている。多重債務に端を発し、高金利規制の流れのなかで、この保険が「命を担保」にしている批判の矢面に立つ形になり、消費者金融大手のプロミスは2006年9月25日、10月1日から保険契約を打ち切ると発表、他の消費者金融も同調する動きをみせている。

   「団信」は、消費者金融会社と生命保険会社の契約で、06年3月期末で約8兆4,000億円の契約高にのぼる。ところが、多重債務者が社会問題化する中で、団信の契約にあたって、消費者金融は、お金の貸し出しの際の契約書の一部に「保険加入に同意する」などと記載されたものを提示するだけだったことが発覚した。

遺族に債務を引き継ぐことを防ぐ顧客サービス、と主張

   保険加入については意思確認が不十分との指摘を受けていた。さらに、保険金の支払いにあたり、通常は必要な死亡診断書が不要な点や、借り手の死が消費者金融の回収と直結していることから、厳しい取立てで死に追いやるとの批判を招いた。

   消費者金融にとって、団信は「赤字」。大手消費者金融の場合、団信で回収した債権総額と保険会社からの配当の合計より、保険会社に支払う保険料が数億円上回る。もちろん、借り手の死亡に伴う貸し倒れ債権を減らせる利点があるが、「借り手の遺族から感謝されるケースが多い。自殺率も他の団信と比べて異常に高いことはない」と主張。同種の保険は住宅ローンでもあり、「債権保全と遺族に債務を引き継ぐことを防ぐ顧客サービスだ」というのも、あながち的外れではない。

   保険をやめ、死亡した借り手からの回収をしなくても、保険料がかからない分、収支はプラスになるとして、利益追求目的や「厳しい取り立てで死においやっている」との見方も否定する。
   他方の生保は、融資先でもある消費者金融から、保険料がとれ、オイシイ話だった。さすがに、批判の高まりを受け、生保協会が保険加入の意思確認など手続きの厳格化に着手。保険加入の手続きを借入申込書と別紙で行う▽保険金請求の際、遺族に内容を通知する、などの指針をまとめた。大手生保の中には、死亡診断書の義務付けを進めるところも出てきた。

「団信」の功罪は、十分検証されていない

   このため、消費者金融側には事務経費が増えることは避けられず、「命が担保」との批判も収まらないことから、保険を打ち切るほうが、経営への影響が最小限に抑えられると判断した模様だ。
   ただ、「命を担保」にした団信の功罪は、十分検証されているとはいえない。団信が打ち切られれば、原則的に遺族は消費者金融の高利の借金を相続することになる。弁護士などからは「相続放棄や、財産の範囲内で借金を認める限定相続がある」との声もあるが、借り手が自宅を競売にかけられる恐れもある。2,000万人とされる消費者金融の利用者が、どの程度の財産を持っているかなどの実態は不明だ。
   借り手が知らないうちに加入し、厳しい取立てにつながっているとの指摘もあるが、債務を相続する遺族からの回収につながりかねず、新たな問題になる可能性もある。
   厳しい取り立てで、死に追いやる誘因がなくなる利益と、遺族が新たな消費者金融の債務者になる不利益のどちらが勝るのか、誰にもはっきり分からないまま、団信の打ち切りの流れが加速しそうだ。