PS3は大丈夫?

   プレイステーション3(PS3)は本当に大丈夫か。楽観的な見通しを語る人は少ない。ゲームファンは「PS3」には関心を示さず、「ニンテンドーDS」で遊ぶのに忙しい。ソフトメーカーの中にはソフトの開発を突然延期するものも現れた。「PS3」の未来に不安を感じているからだ。

   「PS3」は2006年11月11日に税込価格62,790円で売り出される。次世代DVDのBD(ブルーレイディスク)再生機能を搭載し、スーパーコンピュータ並みの演算能力がウリだ。

開発タイトルや発売日が突然、雑誌から消える

   発売が2ヵ月後に迫ったPS3だが、J-CASTニュースソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)広報に対して「PS3はPS2と比べ、処理能力などどれくらい優れているのか」と聞いてみた。すると、

「うまく言えない」

という答えが返ってきた。PS3の最大のウリは、ソニーが世界標準企画を目論む次世代DVD「BD」再生機能の搭載なのだ。決してゲーム機ではない。しかも、PS2時代のDVDとは異なり、BDが普及するかは全くの未知数である。

   日本では、PS3用ゲームの開発タイトルや発売日がゲーム誌に掲載された後に、それらが突然、消えてしまった。そんなソフトメーカーがたくさんあるのではないか、とネットで話題になっている。ゲーム業界関係者はこれについて、

「メーカーは『ニンテンドーDS』でのソフト開発で潤っているので、PS3にチャレンジするよりも、今後も伸びていくことが確実なDSをベースに考えようという動きがあります。だから、あせってPS3のソフト開発をせず、ころあいを見て出そうという動きだと思います」

と分析する。携帯ゲーム機「ニンテンドーDS」は発売後20ヶ月で国内1千万台を超え、ソフトでもミリオンヒットが続出するなど、97年から市場が縮小してきたゲーム業界にとって希望の星で、「ユーザーは既にDSをゲーム機に選んでいて、PS3には向かわない」という見方も出ている。PS3発売後も、PS3用ゲームソフトが増えないことも予想される。

「重要でない10人」の4位に久夛良木社長

   J-CASTニュースではSCE広報にこんな質問をぶつけてみた。

「PS3はゲーム機ですよね?」

すると、

「いいえ。ゲーム"も"できる次世代コンピュータエンタテインメントシステムです。PS2のときもそう表現しています」

と答えた。実は00年3月のPS2発売前、久夛良木社長は当初PS2を「最先端ゲームマシン」という表現から「マルチエンタテインメントマシン」に変えた。するとPSを支えてきたゲームメーカーから大ブーイングが起き、あわてて広報は「PS2はゲーム機です」と訂正した経緯がある。つまり、今回初めて久夛良木社長の「悲願」である、全社をあげての「脱ゲームマシン」になったといえる。

   一方で、PS2のゲームソフト開発費が膨大になり、ソフトも売れなかったことで、ゲーム業界では「ソフトメーカーで儲かっている会社は殆ど無い」と言われるようになった。倒産が相次ぎ、バンダイとナムコ、エニックスとスクウェアのような合併が続いた。経営体力が無くなったゲームソフト会社は、売れる見込みがある人気作の続編ばかり作らざるを得なくなり、ゲーム内容の新鮮さが失われて行った。これがPS3に重くのしかかる。

   アメリカの経済誌「BUSINESS 2.0」は2006年7月号で、世界のビジネス界「重要でない10人」の4位に久夛良木社長を選んだ。ピークを過ぎ影響力が弱まったか、またはその重要性が誇張されていると判断される人の4位だという。理由は(1)今春予定していたPS3の発売を何ヵ月も遅らせ、マイクロソフト任天堂のコンソールより数百ドルも高価になった(2)発売の遅れと費用超過で、成功の見込みのないものを作りそうだ―。そして「ベータマックスの失敗を覚えています?」と皮肉っている。