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海から富士山頂へ。百年前の古登山道が復活!(下)

海から富士山頂へ。百年前の古登山道が復活!(下)
富士山の剣ケ峰を目指す。山頂では無人で地上気象観測(現地気圧、気温、露天温度、日照時間)を行っている。(撮影:穂高健一)
【PJ 2006年08月17日】− (中)からのつづき。大倒木帯になると、またしても陽が射してきた。白花のヒヨドリバナ、テンニンソウが腰の高さまで茂る。甘い蜜をもとめるアサギマダラが乱舞する。

 「すてきね。こんなに静かな富士山麓の大自然が満喫できるなんて、最高よ」と、海老塚治子さん(主婦・50代)がくり返し、驚嘆のことばを口にしていた。

 他方で、歴史の暗い影があった。大倒木帯の中央・笹垢離(ささごり)跡には、地蔵4体の首が切り落とされていた。明治の廃仏毀釈の折、山頂から大日寺が蹴落とされ、浅間大社奥宮に取って代わられた。金目になる仏像は山中から降ろされ、村山の大日堂に押し込められてしまった。石の地蔵などはタガネで、首をはねられたのだ。

 「人間は、ここまで残酷になれるのかと思うと、ぞっとします」と土屋さんがじっと見つめていた。「可哀想に」と痛々しい地蔵をなでる。そんな光景が瞼から消えなかった。

 大自然の美しさと、人間の醜い争いの断面をみたあと、夕刻には新六合目の宝永山荘に到着した。山頂でご来光を見るために、日付が変わる午前零時起床と指示が出た。このまま八合目まで登っておけば、もっと睡眠が取れるのにと、畠堀さんに疑問を向けてみた。「答えは山荘の方が出してくれますよ」と笑っていた。

 「無理して高いところに登るよりも、六合目あたりで宿泊し、高度順応したほうが、高山病になる確率がずっと少ないんです」と、山荘主の渡井正弘さん(66)が教えてくれた。PJはかつて3度ほど、五合目から富士山を登った経験がある。3000メートル付近から吐き気、頭痛で、しゃがんでいる多くの登山者を見てきた。それだけに納得できた。

 宝永山荘は素泊まりで、夕食はレストラン料理の自由な発注だ。「うちは揚げ物がおいしいよ。素材は富士の冷えた水で、一度締めているから」と勧めるのが渡井弘子夫人(65)だった。富士山の山小屋は協定料金よる高額で、夕食は不味いレトルトカレーだ。大半がお代わりなし。『富士山は国民の財産なのに、選択の余地がないのは独禁法違反だ、公取は見てみぬふり』いう批判と悪評とが世間の常識だ。かといってテント設営は一切禁止。この山荘では夕飯の料理が選べるのかと、妙な感動を覚えた。

 「生ビールは宝永山荘だけよ」と渡井環(たまき)さんが勧めてくれた。2000メートルの標高差を登ってきた登山者には魅力ある一杯だった。山口県からきた岡崎戒(かい)さん(大学2年)は愛想の良い接客ぶり。山小屋アルバイトの感想を聞いてみた。「初日に宝永山の右に、影富士が見られました。最高のバイトです」と笑みで語ってくれた。折から、満月が昇ってきた。

 『登山は台風が接近してきたら、出発せよ』という格言があるほどだ。快晴、無風のもと、全員がヘッドランプをつけて零時半に出発した。九合目までくると、星の数が減り、青黒い空が紫色に染まった。水平の浮雲が微紅になり、東の稜線が輪郭をあらわし、眼下の町が鮮明に浮き上がってきた。やがて富士山の稜線が溶銅色に燃えた。

 「ご来光だ」と口々にいい、だれもが手を合わせる。

 海抜0メートルからの登山で体力の消耗が激しく、山頂でのご来光とはならなかった。しかし、最高地点の剣ケ峰は、台風一過の快晴で、四方の絶景が長丁場の登山の苦労を忘れさせてくれた。

 剣ケ峰は二等三角点だった。「日本一高い富士山頂が、なぜ一等三角点じゃないの?」という単純な疑問が生まれた。だれもが答えられなかった。国土地理院の説明によれば、明治維新後、政府が正確な日本地図を作る際、全国各地に測量の骨格となる場所に一等三角点を定めた。しかし、富士山頂は雲が多くて測量できる日が少ない。単独峰だから、まわりには連なる山々がない。観測がやりづらく精度の面でも難があると、外されたのだ。その後の測量の折、二等三角点と指定された。

 富士山の歴史は静かに大きく変化している。登山道が変化したように、かつて富士山頂の象徴だったドーム式のレーダーも04年に任務を終え、撤去された。歴史の観点から、『村山口登山道』復活の先々の問題点をも考えてみた。それは大勢の登山者が利用したならば、自然・遺跡破壊につながらないかという危惧だった。

 富士山は世界に名高い。山容の美しさでは群を抜いている。これだけの名峰がゴミの問題で、世界文化遺産に登録できないでいる。村山口登山道は、他のルートのような醜悪な環境に巻き込まれてもらいたくないものだ。そんな思いをつよくした。【了】

■関連情報
畠堀操八著 『富士山・村山古道を歩く』 風濤社・8月15日発売

問い合わせ先
畠堀操八
 〒252-0813 藤沢市亀井野4-12-44
 ashulla@jcom.home.ne.jp

富士市立博物館
静岡県富士市伝法66-2
TEL(0545)21-3380 FAX(0545)21-3398
                      
記者HP:穂高健一ワールド 
※この記事は、PJ個人の文責によるもので、法人としてのライブドアの見解・意向を示すものではありません。また、PJはライブドアのニュース部門、ライブドア・ニュースとは無関係です。

パブリック・ジャーナリスト 穂高 健一【 東京都 】
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