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ジダンの頭突きとOECD対日審査報告書。(2)

【PJ 2006年07月22日】− (2)不確実性と希望。
(1)からのつづき。「解雇権強化で、雇用が促進されるか」。一見矛盾した、禅問答に似た奇妙な問題設定。しかしフランスで3月に起きた、若者たちの暴動のポイントはここにあった。ことの発端はCPE(Contrat Premiere Embauche:初期雇用計画)。2006年3月9日、これを制度に盛り込んだ「機会均等法」が議会で成立した。これに反発するデモやストライキがフランス全土に拡大し、シラク大統領とドビルパン首相は4月10日、ついに同法第8条、即ちCPEの事実上の撤回を決定した。

 反発は解雇可能性が明文化されていたからだ。企業が26歳未満の労働者を雇用する場合に、2年間の「試用期間」を置くことを認め、その期間内であれば理由なしの解雇を認めるという内容であった。そこで、その目的がフランスの、特に若年層を中心とする失業問題の改善にあった、という点をよくよく吟味しなければならない。

 フランスやドイツ、イタリアなどの大陸欧州諸国は、労働者の権利を手厚く保護する雇用や福祉のモデル(欧州大陸型の福祉国家観)を作り上げ、社会政策の面を重視した欧州独自の資本主義を模索してきた。労働者の解雇はきわめて難しい。

 しかし、そうなると雇用者側も労働者の新規採用に対しては消極的になりがち。能力が未知数である若年層に対しては特にその傾向が強くなる。そこで若年層の雇用に試用期間を設けて解雇を可能にすることにより、雇用者たる企業が若年層をより採用しやすいようにする、というのがCPEの主眼であった。

 全般に欧州はどこも失業率が高い。その中でも、フランスの数字は突出している。フランスの失業率は現在約10%であり、その中で若年層の失業率はその倍の20%を上回る。失業問題は現在のフランス政府にとって最大の急務のひとつである。CPEの狙いはここにあった。若者の側、労働者の側にたった政策、のつもりであった。

 しかし、国民はグローバリズムの影が濃くなることを恐れた。EUが東方に拡大し、欧州統合が進む(欧州のグローバリズム)なかで、人や資本の移動の自由に伴い労働市場もまた一国単位ではない欧州規模での競争にさらされる。フランスも当然例外ではない。フランス国民には、欧州規模の労働市場の中で、自らの雇用を確保しなければならなくなるという危機感があった。「移民の子」を「排除」したい契機が、「排除」で「所得」を確保したい心情の遠因が、ここにある。

 欧州大陸型の福祉国家観が、変化を余儀なくされることへの不安と反発が、今回の暴動の背景にある。そして「安定」が欲しい、という希求がひとまず勝利した。シラク大統領とドビルパン首相は、ついにCPEの事実上の撤回を決定したのだった。

 だが、それは真の勝利だろうか。「安定」と引き換えに「希望」が失われていないか。不確実性(試用期間後の解雇可能性)があればこそ、未来に希望(就職=所得の確保)もある。安定(解雇なし)を望むと希望(就職=所得の確保)が消える。既に雇用関係にある者の利益を重視するか、これから雇用関係に入ろうとする者の機会を拡大するか、と設問を組み替えると問題の真の姿、また難しさが見えてくる。

 雇用の流動化を通じた、経済の活性化がEU統合の狙いだ。狙いの背景には、このままでは欧州全体が「成長」から取り残され、沈滞化するというもうひとつの危機感が一方にあったはずだ。「就職」、「成長」のふたつの希望をどう取り戻すのか、課題は突きつけられたままである。【つづく】

■関連情報
解雇権強化による雇用促進策

WEBサイト『金融リテラシー』編集長:PJ活動のベースとなるクリッピング作業を公開、またメルマガも配信しています。


※この記事は、PJ個人の文責によるもので、法人としてのライブドアの見解・意向を示すものではありません。また、PJはライブドアのニュース部門、ライブドア・ニュースとは無関係です。

パブリック・ジャーナリスト 神宮司 信也【 東京都 】
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