シンドラーエレベータ社製のエレベーターによる事故が、日本だけでなく海外でも多発していたことが明らかになってきた。にもかかわらず、情報開示も、徹底的な原因究明もせず、「当社の責任ではない」といわんばかりのコメントを出し逃げ回っている。あきれた体質に関係者の怒りは爆発寸前だ。

ニューヨーク・タイムズスクウェア。この街にも、シンドラー社製品の犠牲者がいた
ニューヨーク・タイムズスクウェア。この街にも、シンドラー社製品の犠牲者がいた

   JINビジネスニュースの調べによると、2006年5月1日、米国テネシー州3歳の児童がエレベーターのドアに寄りかかったところドアが開き、9階から転落し死亡した。ニューヨークでは2004年8月、ビルの貨物用エレベーターで63歳のガードマンの男性が地下からエレベーターに乗ったところ、突然、最上階の38階まで急上昇し天井に激突、男性は死亡した。カナダでも05年と89年に2件の死亡事故が起きた。香港では02年1月、11歳の男児が乗り込もうとした際に、扉が開いたまま上昇。エレベーターの床と天井に挟まれ死亡した。このほかトラブルも多発している。
   中身を見ると、日本で起きた死亡事故、トラブルとそっくりで、たまたま、とは思えない。これだけ重大事故が起きているのだから、原因の徹底した調査、情報公開、広報が必要なのは当然だ。その当然なことをしていない。
   被害者や関係者、マスコミを憤らせているのが、シンドラー社の事故に対する対応だ。警視庁の強制捜査が入った2006年6月7日午後6時過ぎに記者会見を予定していたのが、いきなりすっぽかした。

保守管理が悪いせい、といっているのに等しいコメント

   詰め寄る報道陣に対し西村智行・新設事業本部長は、「シンドラーはエレベーター業界で世界第2位…」「捜査に全面協力している」とくり返しあらかじめ用意されていた書面を何度も読むだけだった。
   港区の高校生死亡事故では、区が開いた住民説明会への出席を拒否した。出席していた武井雅昭区長が同社の担当者に携帯電話で連絡しても「捜査に影響する可能性がある」と態度は変わらなかった。集まった100人の住人から怒りの声が出た。区の担当者は「文書での回答も求めているが、完全無視のような状態。だから何もわからない」 と話す。
   実は、先の海外の事故でもシンドラー社は「知らぬ存ぜぬ、当社の責任ではない」といわんばかりのコメントを出し逃げ回っているのだ。
   テネシー州の死亡事故ではPR会社を通じ、「この事案は現在捜査中であり、その原因について推測するのは適切ではありません」。ニューヨークの事故では「最初の調査では、ケーブル破損などは確認されていない。 現段階では事故の原因について推測したりこれ以上のコメントを出すのは時期尚早だ」

   06年6月6日に日本の死亡事故について、ウェブ上に同社のケン・スミス社長名のコメントが出た。その中で問題のくだりがある。

「05年3月までは当社が保守を担当し、その後は2社が保守を行っております。この事故がエレベーターの設計や設備によるものでない事を確信している旨を述べさせていただきたいと思います」

   これは保守管理が悪いせい、といっているのに等しい。では、シンドラー社が保守管理も受け持っている東工大やほかの施設でのトラブル多発は何なのか。

「驕りのカルチャーがある会社のようだ」
「死亡事故を起こした会社として、シンドラー社の対応は全くもってデタラメ!」

   そう「断罪」するのは、経営倫理実践研究センター専任講師で「広報力が会社を救う」(毎日新聞社刊)などの著書がある萩原誠さんだ。
萩原さんは「驕りのカルチャーがある会社のようだ」と分析する。自分の責任を認めずに他者の責任にすり替えようとしているからだ。

   「例えケガ程度であっても社長が出てきて謝罪しなければいけない。会社の責任をすなおに認めることこそ、信頼される会社と言えるのに、ケン社長がテレビカメラを向けられた時もカメラを無視した」。これは、企業の危機管理の姿勢の問題だともいう。シンドラー社のように逃げ回れば逃げ回るほど、関係者の怒りは強くなり、マスコミ報道は長期化・深耕し、会社は窮地に追い込まれていく。

「驕りのカルチャーを持つようになった企業は日本企業にも増えてきた。偽装問題、回転ドア事故、ファンド…。シンドラー社を反面教師に襟を正す良い機会になればいいのだが」

   萩原さんは密かに憂いている。