山形国際ドキュメンタリー映画祭で600人の観客で連日満員となるメイン会場の山形市中央公民館ホール。(撮影:常井健一)

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みちのくに映画の都あり─。山形県山形市で7日から、記録映画の世界的な祭典として知られる「山形国際ドキュメンタリー映画祭2005」(山形市など主催)と、東北地方をテーマに新人クリエーターを発掘する「山形国際ムービーフェスティバル2005」(同運営委員会など主催)が始まり、全国各地から映画好きの老若男女が連休を利用して次々と集まっている。

 世界各国から毎回約2万人が訪れる「山形国際ドキュメンタリー映画祭」は、山形市制施行100周年を迎えた1989年から隔年で開催され、今回で9回目。実力派の監督が応募するコンペには、104の国と地域から1628作品が出品された。山形市民や評論家らによる予備審査を通過した「インターナショナル・コンペティション部門」の15作品、「アジア千波万波」部門の24作品や、在日韓国・朝鮮人をテーマにした作品群、作り手の私生活を描写した作品群など145本が、13日までの開催期間中に山形市内の映画館で朝から晩まで上映される。

 上映作には、世界最大の中国・三峡ダムに沈む町の住民の不安や葛藤(かっとう)を描いたものや、アイスランドのアフリカ移民で作るアマチュアサッカーチームを追ったものなど、人権や差別、紛争の現場の視点から伝えようとするものが多く、2時間を超える長編作も珍しくはない。主催者広報によると、複数の人間で手がけた共同監督のもの、ロケ地や扱う課題が2カ国以上にまたがるものが増える傾向にあるという。

 一流の監督と観客が間近でコミュニケーションできるのが、ドキュメンタリー映画祭の魅力。上映後には必ず監督への質疑応答の時間が設けられ、その後もロビーで多くの観客が監督を囲んだ。蔵を改造したカフェでのトークライブや、居酒屋を使った「クラブスペース」など主催者側が交流を促す機会を仕掛けており、各会場は様々な国籍の来場者や関係者で満席状態で、夜中過ぎまでそれぞれの映画論を肴(さかな)に地酒をたしなむ姿が見られた。

 運営には、1週間の開催期間を通して、地元の市民や映画監督を目指す学生など約270人がボランティアで参画。最終日の13日には、邦画『月はどっちに向いている』で知られる崔洋一監督ら審査員が選んだ、賞金300万円の大賞を含む各賞が授与され、観客からのアンケートによる市民賞も選ばれる。

 一方、7、8、9日の3日間行われた「山形国際ムービーフェスティバル2005」は今回が1回目。87年間も市民に親しまれた市内の映画館が閉鎖された04年10月ごろ、「商店街から映画の灯を消すな」と地元の「ケーブルテレビ山形」や地元企業が立ち上がり、映画会社を設立して運動を展開。プロ野球界再編でライブドアが仙台で球団設立表明したのをきっかけに連携した、東北各地のケーブルテレビ13局による「東北ケーブルテレビネットワーク」がフェスティバルを企画し、東北の映画文化発信と新人発掘を訴え、今回の開催に至った。

 東北地方を題材やロケ地にした15分程度の短編映画を募集したところ、20代のクリエーターを中心に90作品が出品された。選考委員長の堀江貴文・ライブドア社長や演出家のテリー伊藤さんらによる審査が行われ、ノミネートされた10作品に賞金1000万円のグランプリの該当作はなかったが、秀(ひで)監督(24)が青森県むつ市で撮影した『49日の幸せな時間』が準グランプリに選ばれた。8日に行われた授賞式では、堀江社長から各受賞者に長編作品の製作資金として賞金が贈られた。

 山形市には人口約25万人に対して、18の映画館が存在。経営難で廃業する映画館がある一方で、500円で鑑賞できる映画館や、東北最大級の複合型映画館(シネマコンプレックス)が完成するなど、時代とともに姿を変えつつ、“市民の娯楽”として生き続けている。最近では、『たそがれ清兵衛』や『スウィングガールズ』などのヒット作品が山形県内で撮影され、監督や出演者を交えた試写会が頻繁に行われるなど、独自の映画文化も根付いている。今回の2映画祭の開催中は、市内の宿泊施設が軒並み満室になるほどの盛況ぶり。フェスティバルを統括したケーブルテレビ山形事業局の渡辺聡副局長は「映画祭は続けていくことが一番。若手監督の登竜門として、『めざせ山形』と思われる形にしたい」と、映画を通して町を活性化する思いを語った。【了】