アラン・グリーンスパンFRB(米連邦準備制度理事会)議長は先週の6日、北京で開かれた国際通貨会議で衛星回線を通じて講演し、その中で、最近の米長期債利回りの低下傾向について、その原因特定が困難なことから、「なぞ」と改めて強調した。これは、FRB(米連邦準備制度理事会)が昨年6月30日に40年ぶりの低水準といわれたFF(フェデラル・ファンド)金利の誘導目標を1%から0.25%ポイント引き上げ、これまでに8回連続で同率の利上げ(合計で2%ポイント)を実施し、現在は3%まで引き上げてきたが、それにもかかわらず、なぜ、長期金利の指標である10年国債の利回りは、1年前に比べて0.8%ポイントも低下し、4%を下回るという低金利状態が続いているか説明できないからだ。

  本来ならば、短期金利のFF金利が上昇すれば、それに合わせて、長期金利も上昇することが期待されるのだが、そうなっておらず、市場では4つの有力なシナリオを描いて、この謎解きに挑んでいる。しかし、グリーンスパン議長は、北京での講演で初めて、この4つのシナリオについて言及したが、そのどれも十分な説明にはならないとして否定している。

  同議長が、4つの説を否定したことそれ自体、どういう意味があるのか、ということになるのだが、市場では、同議長は、長期債の利回り低下とインフレ圧力上昇の可能性をリンクしたという見方が広がっている。つまり、同議長は、長期金利の低下は、米景気の深刻な鈍化を背景にしたものではないという認識を示したという点だ。

  同議長は、9日に開かれた上下院合同経済委員会で証言した際も、「春先に見られた経済データの弱い数値にもかかわらず、経済活動の拡大ペースが深刻なほどに鈍化することはない」とし、さらに「現時点では長期債利回りを見てもインフレは全体的に抑制されているが、長期金利がインフレ圧力を強めるかどうか注視する」と述べている。市場ではこの発言を受けて、長期債利回りが低い水準であり続ける限り、ますます、FRBが利上げを加速させるリスクは強まったと見ているのだ。実際、シカゴのFF金利先物市場では、この9日の証言前には年末までにFF金利は3.50%まで引き上げられるという予想だったのが、証言後は11月末までに3.75%まで引き上げられると、利上げペースの加速予想を織り込み始めている。

  6日の北京での講演で、同議長は「昨年5−6月は予想通り、米国債市場では(FF金利誘導目標の)引き上げを念頭に、国債売りに傾いたが、夏から異変が生じ、金利を押し下げる圧力が出始めた」と指摘した。また、こうした長期金利の低下傾向は米国だけの現象ではないと同議長はいう。「米国だけではなく、あちこちで長期金利は低下している。日本を除くG7各国では米国よりも長期金利の低下ペースは速く、新興市場国でも長期金融がしやすくなっており、メキシコでは2003年に同国で初めてとなる20年ペソ債を発行、ここ数ヵ月でもコロムビアが自国通貨建て世界債を発行しており、世界的に長期金利は低下している」と話す。

  4つの長期金利低下シナリオのうち、多くのエコノミストが指摘するのは、米国の景気の弱さを反映しているという説だ。しかし、グリーンスパン議長は「景気が上向いている国でも長期金利の低下を食い止めることは出来ていない」として、このシナリオは、完璧な説明には成り得ないとして退けた。2番目は、特に先進国では高齢化が進み、退職する人口も増え続ける中で、年金基金や保険会社は、将来の年金給付の原資となる積立金不足に対処するため、長期債投資を増やしているというものだが、これもグリーンスパン議長は「確かに英国やフランスでは50年国債を起債するなど長期債への投資需要が強いのは明らかだが、これだけでは完璧な説明をするには力不足だ」と一蹴する。