東京都渋谷区では、この4月1日から、すべての区立小学校(20校)と中学校(8校)で2学期制が実施される。東京23区内ではじめての試みで、4月から10月5日までが前期、5日ほどの休みをはさんで、10月11日から3月までが後期となる。

「うちの学校にはピッタリの制度だった」

 実は同区では04年度に、猿楽小学校、山谷小学校、原宿外苑中学校、笹塚中学校の4校で試験的に2学期制が導入されている。猿楽小学校の澤幡勇治校長は「うちの学校にはピッタリの制度だった」という。2学期制を導入したおかげで、27年間続いている同校の姉妹校(富山県金山小学校)との交流がより行いやすくなったからである。

姉妹校との交流イベントは毎年、夏休みの初めに予定されているが、3学期制のときには、その準備が学期末の成績評定と重なり、教師に大きな負担となっていた。2学期制導入で、学期の締めが10月になったことで交流の準備に十分な時間を割けるようになり、子どもたちとの接触も密になったという。

 「ただし」と同校の相川哲也教頭が続けた。「制度変更で行事の進行がスムーズになったうちの学校では、反対らしき意見は聞かなかったが、そういうはっきりした利点がなければ、2学期制は理解されにくいかもしれない」。澤幡校長も「いっせいにすべきことではない。それぞれの学校の教育方針にふさわしいかきちんと検討した上で、主体性を持って制度変更をしなければ意味がない」と語っている。

2学期制のメリット

 現在、全国の市町村で2学期制への移行もしくは移行への検討が進められている。02年度に仙台市がすべての市立小中学校で2学期制を導入したのを皮切りに、横浜市、金沢市、京都市では、すでにほとんどの市立小中学校で2学期制へ移行している。東京23区内では、渋谷区のほか、11区で何らかの形で2学期制が導入されており、中野区では05年に小学校4校、中学校2校で試行し、06年度以降に導入校の拡大を協議することになっている。

 渋谷区の広報ニュースでは、2学期制のメリットとして、「授業時間が確保できること(年間で10−30時間増)」、「前期の途中に夏休みがあるので、体験学習や学び直しができること」、「学期が長期になるため、教育活動が無理なくできること」などをあげている。

 渋谷区教育委員会の梅原文雄副参事は、2学期制の導入をきっかけに指導の中身や評価方法を再考し、「ていねいに教え、しっかりとした学力をつけさせたい」とし、「学期の区分を変えることで、児童・生徒の学力向上のみならず教師も意識改革し、教育の質が高まるはずだ」と力説する。

 試験的に2学期制を導入したことによる教育の成果について尋ねると「試行校からは『余裕のある教育ができた』『学習にしっかりと取り組めた印象がある』との報告を受けた」との答がかえってきたが、成績が伸びたことを示すデータは「取っていない」とのこと。

 当初、教育委員会は各学校の事情にあわせて、段階的に2学期制に移行させる方針だった。だが、区内の全小中学校が、05年度から実施することを決めた。だから、「各学校からの反対はないものと考えられる」し、児童・生徒や保護者向けの説明会でも「とくに反対があったとは聞いていない」という。

 しかし、現実はそれほど単純ではない。ある小学校の教頭は「(2学期制を)いずれ実施しなければいけないなら、早い方がいい」という。「隣近所の学校と違う学期制を取るのも煩わしい」という意見も聞いた。渋谷区内の全小中学校が今年度からの2学期制導入を決めたのは、必ずしも積極的な姿勢の表れとはいえないかもしれない。(つづく)

特集・小中学校の2学期制(下)