金平検討会議座長(左)から報告書を受け取る尾辻厚労相(撮影:常井健一)

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 ハンセン病に対する国の隔離政策の変遷や、専門家の責任などを検証した厚生労働省の第3者機関「ハンセン病問題に関する検証会議」(座長:金平輝子・元東京都副知事)は1日、同会議がまとめた最終報告書を尾辻秀久厚労相に提出した。同会議は、ハンセン病政策に対する国の誤りを認めた2001年の熊本地裁判決を受けて、02年6月に設置された。最終報告書は、本文約900ページに実態調査などの別冊を合わせ約1500ページに及んだ。

 同報告書では、昭和初期に始まったハンセン病患者に対する法による隔離が、医科学的な根拠が示されたことは「最初から最後までなかった」と指摘。治療薬が開発された戦後も隔離政策が継続されたのは「医師の妄信や怠慢に国が治安などの観点から便乗し、旧厚生省が療養所の予算獲得を優先した結果」とした。

 また、差別・偏見を助長させた背景として、法曹、教育、福祉、宗教など各界の責任も指摘。報道の責任については「記者の多くは、ハンセン病問題に不勉強で、療養所に足を踏み入れることもなかった。報道が気付かないということは、社会的に問題が抹殺されたも同然」と報告した。

 それらを踏まえ、「放置すれば他の感染症でも同様の悲劇が起こり得る」として、予算編成の在り方や患者の権利を守る法整備、人権教育の徹底、当事者側に立つ医療などを提言した。国が長期にわたる政策を批判的に検証したのは同報告書が初めて。

 同会議委員で全国ハンセン病療養所入所者協議会の神美知宏・事務局長は、「2万4349人が隔離された壁の中で無念の涙を呑んで死んでいった。・・・深い海の底に沈んでいった者たちの魂の叫びの一つひとつをこの検証会議で掘り起こしてくれた」と3ヵ年の検証活動を振り返り、「まだハンセン病に対する根本的な問題解決は入り口に立ったばかり」と今後も検証や啓発を続けていく必要性を訴えた。

 同日、会議の傍聴に訪れたハンセン病回復者でNPO法人アイディア・ジャパン(共生・尊厳・経済向上を目指す国際ハンセン病患者・快復者協議会)の森元美代治・理事長は「(療養所の)退所者もいろんな問題を抱えている。これが契機であって、終わりではない。当事者としてもどんどん外に出て行って、啓発活動に努めたい」と話した。

 同報告書は各都道府県図書館に配布、今後は蔵書として閲覧できる予定だ。【了】