除幕式を終えて、握手を交わす興和不動産の名倉三喜男社長(左)と東京大学総合研究博物館の林良博館長(右)。17日、東京都港区の「赤坂インターシティー」で。(撮影:佐藤学)

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地方自治体の美術・博物館の運営費が削られるなど、日本の美術館や博物館を取り巻く社会環境が厳しくなっている。こうした背景を受けて、東京大学総合研究博物館は18日、東京都港区の「赤坂インターシティー」オフィス入り口の空間を利用した「モバイルミュージアム」をオープンした。価値ある学術標本などを展示品としてパッケージ化した移動型の博物館を展開することによって、これまで施設建物の中に自閉してきた博物館事業を、「内から外へ」変えるという日本で初めての試みがスタートした。

 「モバイルミュージアム」とは、パッケージ化された展示品を、企業や公共施設などに中長期に渡って貸し出し、自由に遊動する新しい事業モデル。展示内容全体が、遊牧民の移動型住居のように、接合・組立・解体を自由に行えるように工夫されている。展示品には、マイクロコンピューターが埋め込まれ、衛星を使って現在位置を確認するGPSシステムなどによって、戸籍や所在情報などをリアルタイムで管理するという。コンテナなどによる長距離輸送にも耐えられるほかに、紛失や盗難に対するセキュリティー・ネットも機能させる。

 展示品は、300万点以上に及ぶ同大学所蔵の学術標本の中から、展示価値の高いモノを選出。展示場には、必要に応じて情報端末や演出照明を配備し、周囲の空間を一時的に博物館的な空間に変容させる。今回展示されているのは、東京帝国大学理学部の動物学教室によって収集された貝類など大ケースに収められた水圏に関する動物学標本のほか、小ケースの1842年にロシアで採掘された当時最大の金塊(40キログラム)のレプリカやマゼランペンギンの骨格標本など合わせて4点。

 東大総合研究博物館の西野嘉章教授は「無味乾燥で非文化的なものになりがちなオフィス空間に、学術研究の香り高い学術標本を持ち込むことによって、仕事や生活の場をより知的で文化的な場に変えることができます」と展示品ケースの前で説明する。仕事帰りの会社員が除幕式を終えたばかりの展示ケースの前で、しばし足を止める姿が数多く見受けられた。

 「モバイルミュージアム」は展示品が単に動くだけではなく、博物館事業を内から外へ、集中備蓄からネットワーク誘導へ、施設建物から市民社会へという、積極的に社会に働きかける意味を持つ。「既存の概念や制度にとらわれて、未来への展望が乏しい」と日本の博物館事業の未来を危惧する西野教授は、「展示期間中に見る人や企業から意見を集めるなどして、今後(モバイルミュージアムが)社会にどのようなインパクトを与えるのかを検証していきたい」と抱負を語った。

 「モバイルミュージアム001」の展示日程は1月17日から3年間。入場料は無料で、半年毎に展示標本を入れ替える予定。【了】