欧州の移籍マーケットが間もなく閉じる。主要リーグは9月1日が期限最終日(例年は8月31日が締め切り)で、そのデッドラインに向けて数々の「駆け込み移籍」がまとまるのが、いわば恒例だ。
 
 締め切り間際のビッグディールは、では、どのようにして起こるのか。過去の事例からメカニズムを探り、今夏の動きを展望する。
 
【写真で振り返る】メガクラブの「駆け込み移籍」
 
【パターン1】微妙な立場にある大物・有力選手の雪崩れ込み
 
 監督との関係が壊れ、あるいはチーム戦術に合わないなどの理由から出番が減り、退団の意思を固めながらも高額の年俸や移籍金がネックで受け入れ先が見つからず、結果的に商談が成立するのは期限間際に――。大物が駆け込みで移籍する典型的なパターンのひとつだ。
 
 バルセロナでグアルディオラと反目したイブラヒモビッチ、R・マドリーで処遇に不満を抱えたスナイデル、ロビーニョ、カカがまさにそうだった。ロビーニョはマンチェスター・C時代も規律違反で居場所を失い、期限最終日にミランに渡った「常連」だ。
 
[パターン1の主な事例]
2008年8月31日|ロビーニョ/R・マドリー → マンチェスター・C
2009年8月29日|ヴェスレイ・スナイデル/R・マドリー → インテル
2010年8月28日|ズラタン・イブラヒモビッチ/バルセロナ → ミラン
2010年8月31日|ロビーニョ/マンチェスター・C → ミラン
2013年9月2日|カカ/R・マドリー → ミラン
 
[パターン1 今夏の注目銘柄]
ハビエル・エルナンデス(マンチェスター・U)
ペトル・チェフ(チェルシー)
【パターン2】レアル・マドリーの一本釣り
 
 狙いを定めたタレントの所属クラブと粘り強く交渉を続け、必要に迫られれば莫大な移籍金をポンと提示してデッドライン間際に口説き落とすのが、R・マドリーのいわば常套手段だ。05年夏に2700万ユーロ(約38億円)でS・ラモスを強奪したのを最後にしばらく封印していたが、一昨年のモドリッチ、昨年のベイルと2年連続で見事な一本釣りを実現した。
 
 かねてから獲得を狙うファルカオが次なるターゲットか。宿敵A・マドリーに所属していた昨年は見送ったものの、今夏なら「禁断の移籍」ではもはやないだけに……。
 
[パターン2の主な事例]
2005年8月31日|セルヒオ・ラモス/セビージャ → R・マドリー
2012年8月27日|ルカ・モドリッチ/トッテナム → R・マドリー
2013年9月1日|ガレス・ベイル/トッテナム → R・マドリー
 
[パターン2 今夏の注目銘柄]
ラダメル・ファルカオ(モナコ)
 
【パターン3】大黒柱を売ったクラブのラストアクション
 
 昨夏に主役を演じたのが、退団がほぼ確実となったベイルの売却益を当て込み、65億円相当の巨費を投じてラメラ、エリクセン、キリケシュと3人の実力者を一挙に釣り上げたトッテナムだ。今夏同様の状況にあったのが、スアレスをバルサに引き抜かれたリバプールで、8月25日にミランからバロテッリを獲得。「ポスト・スアレス」の新エースを確保した。
 
 そのバロテッリを手放したミラン、ファルカオが引き抜かれた場合のモナコのラストアクションに注目だ。
 
[パターン3の主な事例]
2013年8月29日|エリク・ラメラ/ローマ → トッテナム
2013年8月30日|クリスティアン・エリクセン/アヤックス → トッテナム
 
[パターン3 今夏の注目銘柄]
ミラン
モナコ?
【パターン4】同胞監督や恩師の熱烈ラブコール
 
 少なくないのが同胞の監督やかつて指導を受けた恩師のラブコールに応える形で、期限間際に滑り込むケース。例えば、同じスペイン出身のベニテスに口説かれてリバプールに渡ったリエラ、同胞モウリーニョが率いるインテルに馳せ参じたカレスマ、エバートン時代に師弟関係を築いたモイーズの誘いで、マンチェスター・Uに入団したフェライニなどだ。
 
 今夏で気になるのは、以前からオランダ人選手を集める傾向が強いマンチェスター・Uの新監督、ファン・ハールの動向だ。ブリント、ストロートマンなどが実際に新戦力の候補に挙がっている。
 
 ちなみに、1分け1敗と低調なスタートを切ったマンチェスター・Uは、後述する「パターン5」にも該当する。
 
[パターン4の主な事例]
2008年9月1日|アルベルト・リエラ/エスパニョール → リバプール
2008年9月1日|リカルド・カレスマ/ポルト → インテル
2013年9月2日|マルアン・フェライニ/エバートン → マンチェスター・U
 
[パターン4 今夏の注目銘柄]
ダレイ・ブリント(アヤックス → マンチェスター・U?)
ケビン・ストロートマン(ローマ → マンチェスター・U?)
ラファエル・ヴァランヌ(R・マドリー → チェルシー?)
【パターン5】開幕直後のブレーキが呼び水に
 
 1分け1敗で迎えた3節のマンチェスター・U戦で2-8という歴史的大敗を喫し、焦りに焦ってデッドライン間際の大型補強に打って出たのが、11年夏のアーセナルだ。メルテザッカー、アルテタをはじめ、A・サントス(フェネルバフチェから)、ベナユン(チェルシーからのレンタル)、パク・チュヨン(モナコから)を一気に獲得した。
 
 2分け1敗と出遅れた09-10シーズンのバイエルンは、巻き返しの切り札としてロッベンを迎え入れた。スタートで大きく躓いたメガクラブには、要注目だ。
 
[パターン5の主な事例]
2009年8月28日|アリエン・ロッベン/R・マドリー → バイエルン
2011年8月31日|ペア・メルテザッカー/ブレーメン → アーセナル
2011年8月31日|ミケル・アルテタ/エバートン → アーセナル
 
[パターン5 今夏の注目銘柄]
マンチェスター・U
【パターン6】所属するクラブやリーグにトラブル発生
 
 記憶に新しいのは、緊縮財政路線に急転換したアンジで重荷となったエトーとウィリアンが、チェルシーに揃って流れ込んだ13年夏の駆け込みだ。稀なケースではあるものの、今夏に限れば内戦状態が続くウクライナのクラブから、タレントが一気に流出する可能性が考えられる。シャフタールのベルナールやD・コスタ、ディナモ・キエフのレンスは4大リーグ行きが囁かれている。
 
[パターン6の主な事例]
2013年8月25日|ウィリアン/アンジ → チェルシー
2013年8月29日|サミュエル・エトー/アンジ → チェルシー
 
[パターン6 今夏の注目銘柄]
ベルナール(シャフタール)
ドグラス・コスタ(シャフタール)
イェレマイン・レンス(ディナモ・キエフ)
 
【パターン7】「ポルトガルのクラブからゼニト」のルート
 
 12年夏にビッグサプライズを提供したのが、9月3日にフッキとヴィツェルのダブル獲りをやってのけたゼニトだ。西欧の主要リーグから、移籍マーケットを数日遅れてクローズさせるロシア市場のからくりを巧みに利用し、競合相手が消えたタイミングで一気に契約をまとめ上げたのだ。
 
 ゼニトは今夏にポルトガル人のヴィラス・ボアスが新監督に就任。すでにベンフィカからガライを獲得するなど依然としてポルトガル方面とのパイプは強く、2年ぶりの再現があっても不思議はない。
 
[パターン7の主な事例]
2012年9月3日|フッキ/ポルト → ゼニト
2012年9月3日|アクセル・ヴィツェル/ベンフィカ → ゼニト
 
[パターン7 今夏の注目銘柄]
ニコラス・ガイタン(ベンフィカ)
ジャクソン・マルティネス(ポルト)
 
※『ワールドサッカーダイジェスト』2014年9月4日号より一部修正・加筆。