2014年のNHK大河ドラマ『軍師官兵衛』。軍師官兵衛のロゴは、筆文字の題字になっており、書家・祥洲(しょうしゅう)さんが題字を揮毫されています。今回は、この雄大なロゴについて、NHK『軍師官兵衛』制作統括 中村高志プロデューサーにお話を伺いました。

○書家・祥洲さんに依頼した理由

――祥洲さんに『軍師官兵衛』の題字を発注された経緯を教えてください。

ネットで自作を発表されているのを拝見し、祥洲さんが書家でありながらさまざまな活動をされているのを知りました。例えば、老舗ブランドとのコラボなど、新しいものに挑戦する、その姿勢に感銘を受けました。

この人なら私たちが求めているものを表現できるのではないかと思ったのです。

――祥洲さんにはどのように仕事の依頼をされましたか?

「軍師官兵衛」という五文字の中に、黒田官兵衛の生涯を入れ込んでほしいとお願いしました。黒田官兵衛という人は、とても魅力のある人物です。例えば、側室を置かず、ひとりの奥さんと添い遂げたこと、また戦国の世に生きたにもかかわらず、人殺しが好きではなかったことなど、さまざまな側面を持っています。

大河ドラマは1年間、その人物の生涯を追い続けます。ですから、その人物のいろいろな面、魅力を表現したロゴでなければならないのです。

さらに「若さ」を入れてくださいとお願いしました。

――それはなぜでしょうか?

黒田官兵衛というと、頭巾をかぶった老年の肖像画をイメージする人が多いかもしれません。でも大河ドラマで描くのは、若いころからの官兵衛、生涯を通じての官兵衛です。

また、黒田官兵衛を演じる岡田准一さんは33歳と若い俳優さんです。

そのふたつの観点から、「若さ」「勢い」というものを感じさせてほしかったのです。ですので、「黒田官兵衛の生涯を込めて、かつ若さを感じさせる題字をお願いします」ということを祥洲さんにお話ししました。

○「肩書き」と「名前」なので難しい

続いて、書家・祥洲さんに、実際の書の制作についてお話を伺いました。

――最初にお仕事の依頼が来た時はどんな感想をお持ちでしたか?

国民的ドラマともいえる大河ドラマの題字揮毫(きごう)はとても名誉なこととうれしく感じました。しかし、ご依頼と同時に知らされた番組タイトルを聞いて、即座にこれはとても難しいと思いました。

「軍師」といういわば肩書きと、名前の「官兵衛」が組み合わされているからです。「黒田官兵衛」ならひとつの調子で書き上げるところですが、この二者を書き分けつつ、全体としての調和を保たねばなりません。

このふたつをどのような構成にすればいいのか、ということで頭がいっぱいになりました。

――プロデューサーからはどんな発注でしたか?

表現に関して、こう書いてほしいなどという発注はありません。制作サイドにドラマの方向性をお伺いし、それが制作の指針となりました。

また私からは、「横組みの構成案」と、常日頃から大切に考えている「伝統を重んじ、その上で現代の書としての表現を追求する」という考えをお伝えしました。

○イメージを広げるのが重要

――書の制作はどのようにスタートしましたか?

ご依頼から締め切りまでは1カ月ほどの時間がありました。まずは「黒田官兵衛」に関しての資料調べからスタートしました。

その時点で出来上がっていた台本もしっかり読みました。その後はすぐに筆を持たず、イメージが広がるのを待ち続けました。

その間に紙や筆の準備や「墨作り」の作業を進めます。私はこれから作ろうとする作品のイメージに合わせて、用具の組み合わせを吟味します。

その中で特に重視しているのが、自らの手でススからこね上げて作る「祥洲自家製墨」です。「黒田官兵衛」の愚直なまでの真摯(しんし)な生き様を表現するために、引き締まった黒の墨色を持つ「祥洲自家製墨」、骨のある線質が表現できる「筆」、にじみのないキリッとした線のエッジを見せる「紙」の組み合わせを準備しました。

○「一期一会」の精神で制作

――試作を重ねられましたか?

私は、同じ構成の作品を何枚も何枚も書いてその中から一番良くできた作品を選び出すという制作はしません。

何枚も書くと確かにまとまっていくかもしれませんが、それと引き替えに作品に込める「魂」が薄れていくと思うからです。だから私はいつもその「魂」を最大限に込められるように1枚しか書きません。

「紙の命は一度限り」さらに「一期一会」の精神で制作に臨んでいます。

そこで書技術としてのミスが出ないように、日々、古典の模写に取り組み鍛錬することがプロ書家として当然のことと考えているのです。

実際に筆を手に書いている時間は、おそらく数分でしょう。

しかし、この「数分」には、5歳から筆を手にして50年、大学生だった19歳で初めて書でお金を頂いた……いわばプロ書家としてスタートしてからは36年、そういう時間が背景にあります。制作にかかった時間は、「数分 + 50年分」なのです。

○「渾身の作」1点のみを提示

――プロデューサーにはどのように作品を提示されましたか?

軍師官兵衛の題字作品は数種類のバリエーションを制作しました。それぞれのバリエーションは1枚しか書いていません。

そしてその中から「渾身の作」1点のみを選び、それを自ら撮影し、16:9の画面比率を考えてレイアウトデザインまでを手掛け、デジタルデータ化しました。

お約束の日に、その1点の原作と出力だけを携えてNHKへ出掛けました。一般的には数種類の作品を準備するのでしょうが、「渾身の作」は何点もできるものではありませんから。

持参した作品が駄目であるならば、今回のお仕事は辞退させていただこうと決めていました。ありがたいことに、この作品がご採用いただけました。

○書に込めた思いとは!?

――「軍師官兵衛」の書に込めた思いをお聞かせください。

奇を衒(てら)うような造形を用いず、誰もが読みやすいことを大切にしています。また独り善がりな書にならないよう、「軍師」の箇所は、中国書道史を代表する「顔眞卿(がんしんけい)」を、「官兵衛」は「六朝時代の書風」という伝統書の力をお借りして、なんとか書き上げることができました。

まだまだ未熟な私が、題字揮毫の大役をしっかりと勤め上げられたかは分かりませんが、『軍師官兵衛』の題字が多くの皆様に親しまれ、愛していただければ、それほど、幸せなことはございません。大河ドラマ『軍師官兵衛』をどうぞよろしくお願い申し上げます。

○プロデューサーはこう見た!

――出来上がった書を見て、中村プロデューサーはどう思われましたか?

非常に勢いがあり、かつ端正なものだと思いました。

――大河ドラマのロゴ作りの難しさがあるとすればどのような点でしょうか。

そうですね、やはり1年間を通じて放送される番組ですので、「1年間持つロゴなのか」という点でしょうか。どこを目指しているのかを表現できているものでないとならないですから。

その点で祥洲さんの書は素晴らしいものになっていると思います。

――ありがとうございました。

いかがだったでしょうか。大河ドラマという大きな看板番組のロゴ制作には、やはりそれに応じた難しさがあるようです。

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(高橋モータース@dcp)

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