施設で「モテる男・モテない男」は、どこが違うのか。今回、介護現場で働く3人に集まってもらい、話を聞いた。「ツレに先立たれた97歳と94歳、93歳と94歳、92歳と85歳の3組のカップルがいる」という老人ホームの現状とは――。
Aさん●ケアマネジャー。53歳女性。地域包括支援センターに勤務。介護職歴33年。
Bさん●有料老人ホーム施設長。45歳女性。事業の立ち上げから運営まで幅広く従事。
Cさん●介護福祉士。65歳男性。10年前にメーカーを早期退職して介護の道へ進む。

■老人ホームは、超熟女の花園?

【Aさん】死ぬまでモテたいって、おかしな企画考えるよね(笑)。あなたの妄想? ふーん、デスクのアイデアなんだ。まあ、いくつになってもモテたいという人のほうが元気だし、いいことだけどさ、女の怖さがわかってないというか、懲りない人とも言えるよね。

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【Bさん】うちの規模は400人ちょっと。そのうちの3分の2が女性ですね。

【Cさん】うちはもっと女性率が高いですよ。30人中、男性は3人。

【Aさん】たいがい旦那が先に亡くなるから、どこのホームも女だらけですよ。モテたかったら、長生きするほどチャンスが増える(笑)。

――75歳以上は男性684万人、女性1065万人ですものね。でも、そもそも、老人ホームでの恋愛って、よくあることですか?

【Bさん】うちにはツレに先立たれた97歳と94歳、93歳と94歳、92歳と85歳の3組のカップルがいますね。

【Cさん】うちは今、カップルいないなあ。お亡くなりになったから。

――そうか、別れは永遠の別れか。

【Aさん】というか、老人ホームでモテたいって、妻が先に死ねばいいのにと思っているということだよね。

【Cさん】デスクに言っておいて、妻が先にという確率は低いって。それとも熟年離婚して老後にもうひと花咲かそうと考えているとか?(笑)

【Bさん】うちはご夫婦で入居されている方が3分の1くらいいます。ホームという集団生活のなかでの二人暮らしは、世間体ってこともあって、1人で入居するより大変なこともある。

【Aさん】夫婦でも、男と女って介護観が全然違うからね。

――どう違うのですか?

【Bさん】夫は男の職員が妻の介護をするのにいい顔をしないんです。特に妻のシモの世話はさせない。それは女性職員じゃないとダメ。逆に夫のシモの世話を女性職員にさせたくないという妻はまずいません。男性の場合、妻は自分のものだという意識が強いですね。まあ、健気とも言えますが……。

【Aさん】預けられないんだよね。だから男は介護が必要になっても、行政の福祉サービスに頼らずに、自分でなんとかしようと無理しちゃう。

【Bさん】その点、女性はドライです。むしろすすんで夫を預けたい。極端な例だと夫に触れないという人もいます。ずっと家庭を放ったらかしで、育児も教育も妻まかせ。おまけに浮気もし放題。そんな好き勝手していた旦那のシモの世話なんてできないって。

■モテる男の条件は、年齢に関係なし!

【Cさん】浮気とかDVとか、やましいところがある男ほど、妻に優しくなろうとする傾向がある気がする。

【Bさん】家具を高級家具に買い替えたり、すでに自分は寝たきりなのに家中に手すりを設置すると言ってきかない男性がいたんです。理由を尋ねると、妻のため、感謝の気持ちだと言うんです。そんなもの必要ない、お金を使わないでほしいと妻は思っているのに。

――すれ違いですね。

【Aさん】そんな思いをしても、ツレを亡くすと、また恋をしちゃう人もいる。

――高齢者カップルのお付き合いってどういうものなのですか?

【Bさん】部屋は別々ですが、朝起きるといつも一緒にいてご飯を食べたり、散歩したり、互いの具合を心配したり。微笑ましいですよ。

【Cさん】モテる秘訣を聞くんじゃなかったの?

――そうでした。秘訣、ありますか?

【Aさん】高齢者になったからって、男がモテるポイントはそう変わらないですよ。イケメンはいくつになっても人気だし、お金に余裕があったほうがないよりはモテる。モテないのは、自慢話をする人、すぐに怒鳴る人、悲観的なことばかり言う人、身なりの不潔な人。高齢になっても同じですよ。

【Bさん】モテるおじいさんって、鮮やかな色のシャツを着ていません? 清潔感があっておしゃれ。そして誰に対しても穏やかで、人の話をよく聞く。あと、褒め上手ですね。

【Cさん】要するにコミュニケーション能力が高い(笑)。

■愛と欲望が、渦を巻くこともある

――年を取っても男性から積極的にアプローチするのですか?

【Bさん】人にもよるけれど、高齢になると女性のほうがやや積極的かも。

【Cさん】嫉妬が渦巻くこともある。

【Bさん】うちの一組は男性が積極的で、実は数人の女性に声をかけては断られて、今の彼女とカップル成立となったんです。で、先日、施設のイベントで、みんなで外出したときの記念写真を廊下に貼り出したんです。すると、いつのまにか写真の彼女の顔が何かで削られている。男性を振ったおばあさんのうちの1人の仕業らしくって。

【Cさん】学校や職場であちこちに手を出すのもマズイけど、ホームは卒業や人事異動がないからね。

【Aさん】奥さんのいる80代の男性を60代の愛人女性2人が取り合って殺人事件というのもあったでしょう。職員のほうが気を使うよ。

――ズバリうかがいますが、90代のカップルはセックスしているのですか?

【Bさん】うちの3組はしていないと思う。でも90代になれば性欲がなくなるわけじゃなくって、それこそ毎朝、隠れてマスターベーションしている90代の男性もいます。この人は元お医者さまで、ボケてもいない。

【Aさん】オムツしているのにマスターベーションして、オムツがずれて排泄物をまき散らしちゃうケースとかって、あるからね。80歳で勃起する人も結構いるのに、うちの旦那は50代半ばで役立たず(苦笑)。

■初恋の人同士が、巡り逢うことも

【Cさん】男性職員の股間に手を伸ばしたり、抱いてと迫ってくる女性もいますよ。品のいい、可愛らしい女性ですけどね。彼女の場合、まだらボケなんだけれど、年を取るってそういうこと。

――ロマンチックなものを想像していましたが、生々しいですね。

【Bさん】でも、ロマンチックなこともあります。私が知っている初恋の人同士80代のカップル。若いころの2人は事情があって結ばれず、それぞれ別の人と結婚して、女性は九州の小さな島で暮らしていたのだけれど、80歳を過ぎて、夫もお子さんも亡くしてしまったの。女性のお孫さんが1人いて『おばあちゃん、誰か会いたい人いる?』って尋ねると『初恋の人に会いたい』って。そこでお孫さんが相手を探し出して連絡すると、向こうも奥さんを亡くして東京で一人暮らしをしていることがわかったの。で、彼女が上京して2人で暮らし始めたんです。少し認知症が現れ始めているけれど、男性は健気に面倒を見ていますね。

【Cさん】男性に子どもは?

【Bさん】近所に一人息子が暮らしていますが、好意的に見守っています。

【Aさん】普通、子どもは親の恋愛を嫌がるよね。年老いて色気づいた親なんて見たくないし、結婚するなんて言いだしやしないか、ハラハラしている。

【Cさん】相続とかお墓のこととか、面倒なことが起きるのも嫌だしね。

【Aさん】結局、年を取るにつれ、異性への欲望やお金への執着が薄れ、枯れていくというわけじゃないから。

【Bさん】いつまでも欲があっていいじゃないですか。いくつになってもモテたいと思うのは大事。最期まで、人生を楽しんでほしいですね。

(フリー編集者 遠藤 成 写真=iStock.com)