幸楽苑ホールディングスは3月下旬から1人焼き肉店「焼肉ライク」をフランチャイズ展開する(記者撮影)

都心で浸透しつつある「1人焼き肉」店は、郊外でも成功するか――。

郊外型ラーメン店「幸楽苑」を運営する幸楽苑ホールディングスは2018年12月末、2019年3月から郊外のロードサイドで「焼肉ライク」のフランチャイズ展開を始めると発表した。

幸楽苑ホールディングスが手掛ける焼肉ライクの1号店は3月29日に、千葉県内にオープンする予定だ。焼肉ライクの運営元であるダイニングイノベーションと提携して、郊外型店舗の共同開発を行い、1年以内に10店の出店を目指す。1人焼き肉を本格的に郊外でチェーン展開するのは、国内で初めてだ。

自分のペースで食べる焼き肉

焼肉ライクの大きな特徴は、顧客が1人でも気軽に立ち寄れる点だ。複数人での利用を想定している従来の焼き肉店とは異なり、焼肉ライクはほとんどの席に1台の無煙ロースターが設置されており、好きな部位を50グラム単位で選ぶことができる。おのおの自分のペースで、自分好みの食べ方ができる点が魅力となっている。


焼肉ライクで提供される定番商品の「カルビ&ハラミセット」(記者撮影)

焼肉ライクはメニューを最小限に絞り込み、注文から3分以内に提供することで、1人当たりの平均滞在時間を25分に抑えて客の回転率を高めた。客回転率を高めることができた結果、客単価1400円程度と比較的低価格での商品提供を可能にした。

幸楽苑ホールディングスはペッパーフードサービスともフランチャイズ契約を結び、2017年末から「いきなり!ステーキ」を出店してきた。現在は16店を運営しており、そのうち15店が既存の幸楽苑からの業態転換による出店である。

しかし、いきなり!ステーキは47都道府県で389店を数え(2018年末時点)、成長が限界に達しつつある。実際、既存店売上高は2018年4月以降8カ月連続で前年割れが続く。

また、客単価2000円のいきなり!ステーキは所得水準の高い都心部では強いが、郊外での展開においては力強さを欠く。従来、郊外で強みを発揮してきた幸楽苑ホールディングスは「良い立地があれば出店したい」とするものの、直近の3カ月で同社によるいきなり!ステーキの出店はなく、今後の出店計画もない。

ラーメン店同士の自社競合を回避

そこで、肉業態の第2弾として、成長が期待される焼肉ライクと手を組む。今回の焼肉ライクでも、10店すべてが既存の幸楽苑からの業態転換を計画する。新規出店の余地が限られる中、ラーメン店同士の自社競合を解消し、グループ全体の客数を増やして採算の向上を図る狙いだ。


幸楽苑ホールディングスの新井田昇社長(左)とダイニングイノベーションの西山知義会長(記者撮影)

幸楽苑ホールディングスの新井田昇社長は、「郊外でも個食化が進んでいる実感がある。焼肉ライクの話をいただいたときに、これは人気が出るのではないかと直感した」と話す。ダイニングイノベーションが2018年8月に直営でオープンした新橋の1号店は平均月商1600万円。対して、今回の郊外店は家賃や人件費の負担が少ないこともあり、「月商1000万円、年商1億円で御の字」(新井田社長)という。

ダイニングイノベーションとしても、展開する地域のすみ分けができる。同社が運営する焼肉ライクは現在2店舗。今年4月までに、渋谷や横浜、秋葉原、五反田での直営の新規出店を予定するが、すべてが都心立地である。グループとしてロードサイドでの本格運営の経験が少ないため、今回郊外を中心に500店を持つ幸楽苑ホールディングスに郊外の展開を託す形となった。

とはいえ、いきなり!ステーキが郊外で苦戦していることから、客単価が比較的低い焼肉ライクでも同様の懸念はある。従来の焼き肉店と比べれば低価格でも、ほかの飲食店全般との競争に打ち勝っていくには、コストパフォーマンスの高さを訴求していく必要があるだろう。滞在時間を抑えて、回転率を向上し続ける努力も求められる。

郊外にも進出を始める「1人焼き肉」は、新たな市場を生み出すか。外食企業の挑戦に注目が集まる。