民主党が下院を奪還したことによって、アメリカ議会は上下院で多数派政党が異なるねじれ状態に(写真:Jim Bourg/ロイター)

今回の中間選挙で、民主党は女性や若者、マイノリティの支持を得た。これは、ドナルド・トランプ大統領による排外的な呼びかけを拒否する多くの国民の明白なメッセージだ。もちろん、この拒否は普遍的なものではない。アメリカの農村部や、中高年の白人男性、共和党支持者が多い南部では、トランプ人気はいまだに高い。

そのためだろうか、この選挙結果が発しているメッセージに、トランプ大統領は、耳を傾けないという選択をした。同大統領は選挙後の記者会見で、挑発的な態度を取って勝利を主張し、敗北を認めようとしなかった。続いてジェフ・セッションズ司法長官を解任し、ロシア疑惑の捜査を主導するロバート・モラー特別検察官との対決準備を始めた。民主党が多数派になったことで独自の調査に着手する権限を手にした下院との闘いがすぐに起きるのはほぼ確実だ。

「最悪のシナリオは回避された」

こうした中、日本の政府関係者は静かな「安堵」のため息をついている。安倍晋三首相がトランプ大統領との個人的な関係を大いに強調しているにせよ、日本はアメリカとの間に非常に困難になることが予想される貿易交渉を控えている。こうした中、民主党善戦という今回の結果を、政府関係者たちは「悪くない」と見ているのだ。

「最悪のシナリオは回避された」と、ある政府高官は話す。「苦戦は続くだろうし、争いは終わらない。民主党は好きではないが、トランプ大統領が権力を持ちすぎることも望んでいなかった」

それでも、議会が限られた役割しか果たさない事柄、すなわち貿易や外交政策といった分野を制御するにはトランプの権力は十分にある。実際、トランプ大統領は外交関係が悪化したとしても、日本や中国、ヨーロッパ連合との間の関税による貿易戦争をさらに激化させるかもしれないことや、中国との緊張をさらに高めること、北朝鮮との見込みの薄い取引を追求することなどを示唆している。

日本に対しては、トランプ大統領は選挙から間を置かずに安倍首相へ警告を送った。選挙後の記者会見で日本の記者がトランプ大統領の貿易政策の目指すところを質問しようとしたところ、トランプ大統領はいつもどおりの無礼で嫌みな流儀でこう返答した。「晋三によろしく。私は間違いなく彼が自動車への関税を喜んでいると思う」。

安倍首相が何度誤解を正そうとしても、その努力はこれまでのところ無に帰している。トランプ大統領は、日本はアメリカとの間に1000億ドルもの黒字を抱えており(実際は570億ドル)、日本人がアメリカ車を購入しないのは、アメリカ車に「重税」が課されているためだとしているが、どちらも完全なる誤解だ。

日本車に関税を課す準備はできている

間違いないのは日本が長らく拒んできた二国間の貿易協定を推し進めるために、日本車に25%の関税を課すという脅迫を強大な武器として利用する準備を、トランプ大統領が進めているということだ。「トランプ大統領はいつでもその武器を使う準備ができている」と、ある日本の政府高官は話す。

アメリカ通商代表部(USTR)は要求に応じて、12月10日に日本との貿易交渉に関する公聴会を開く。USTRのロバート・ライトハイザー代表はすでにこの交渉の狙いは自動車、農業、サービス業といった分野における関税と非関税障壁とを取り除くことにあるとの考えを示している。またスティーブン・ムニューシン財務長官は、この取引に通貨切り下げを防ぐ条項を含めることを求めている。

一方、日本の高官たちは農業に関して一定の「ライン」を用意している。彼らはアメリカとの環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の交渉においてすでに合意した地点を超えての譲歩はしない考えだ。そして、麻生太郎財務相はいかなる通貨問題をも含めることを拒否する構えだ。

しかし、ライトハイザー代表は主に自動車を狙ってくる可能性が高い。同代表は何台の日本車が優遇税率でアメリカに入ってくるかに関して、明確な定数の設定を模索しているのだ。現在、日本の自動車メーカーは年間約180万台の自動車をアメリカに輸出している。その中にはスバルやマツダといったアメリカ国内に生産拠点を持たない比較的小規模なメーカーも含まれる。

重い自動車関税は日本企業に打撃を与え、日本の雇用と経済成長を危機にさらすだろう。だが来夏の衆議院選挙と与党内での総裁選を控えた状況で、こうした要求を受け入れることは「政治的自殺」に等しいと、日本のある高官は語る。

民主党内で貿易に関する厳しい取り組みが支持されていることからすれば、民主党が主導権を握る下院はあまり日本の助けにはなりそうもない、とアメリカの多くの日米関係専門家は考えている。しかし、民主党員の間にも、トランプが用いる「いじめの戦略」は逆効果だとの見方が増えている。

「下院における民主党の勝利によって232条による自動車関税の恐れは弱まるだろう。これによってトランプ政権との二国間交渉における日本政府の立場は強まる」と、カーネギー国際平和基金の日本の専門家、ジェームズ・スコフ氏は話す。

「(自動車業界、ディーラー、労働者など)誰も232条を好んでいない。特に同盟国相手に発動することは。共和党員がもっとはっきり反対しなかった唯一の理由は、トランプに公然と反抗して、彼の『交渉そのもの』までも否定したくなかったからだ」。

中国に対しても強気姿勢は変わらず

トランプ大統領の中国に対する姿勢も選挙後に軌道修正の兆候を示すことはなかった。トランプ政権は中国に対する「新冷戦」アプローチに縛られているようだ。このアプローチはマイク・ペンス副大統領によって先月提示され、長らく中国に関するこの見解を持ち続けてきたジョン・ボルトン国家安全保障問題担当大統領補佐官率いる新保守主義者の中心となる人々によって支持されている。

このアプローチはアメリカ企業を中国のサプライチェーンへの依存から「切り離す」ことと、中国による先端技術への参入に異を唱えることとを目指す貿易戦略と重なり合っている。現在予定されているトランプ大統領と、中国の習近平国家主席との会談は今月末のブエノスアイレスで開かれるG20の会合だ。この会談は、今後の米中関係を占ううえで重要なものとなるだろう。

多くの政治・政策専門家は、アメリカにおける「ねじれ議会」からは、このアプローチに対する大きな抵抗は生じないだろうと見ている。たとえ米中関係がどこに向かうのかを案じている人々が多いとしても、だ。

「アメリカ政界内部の心情は急激に反中国へと変化している」と、ブルッキングス研究所のジョナサン・ポラック氏は語る。「両党が多かれ少なかれ一致しているらしい論点は多い。トランプ大統領と閣僚らは、『中国に対しては非常に厳しくあれ』という姿勢を強く抱いているようだ」

「民主党員の中には『切り離し戦略』は愚行に近いと主張する議員もいるかもしれない。しかし、トランプ大統領が再選に向けてこの戦略が彼の支持層にウケると考えるのであれば、その代償が自ら抑えられる範囲のものであるかぎり、この戦略を追求するだろう。だが、これはあってはいけないことだ。特に長期化した貿易戦争によるアメリカの消費者と企業両者にとっての負の側面がしだいに明らかになってくるのであれば」

アジア政策に関して、今回の選挙結果の影響を最も受けないのは北朝鮮政策だろう。トランプ大統領による北朝鮮の人権問題と政策に関する対応は、議会でも批判されている。

また、安全保障専門家の多くは、トランプ大統領による金正恩朝鮮労働党委員長との交渉は未熟で、不利な合意に至りかねないと懸念している。こうした専門家は、トランプ大統領と北朝鮮との合意によって、朝鮮半島での長期的なアメリカの存在感が事実上損なわれかねないと案じているのである。

残り2年は「政治的遺産作り」になる可能性も

だが、大多数の人々は北朝鮮に関して政権に異を唱えても効果が薄いと考えている。「トランプ大統領は、この件に関しては自分が有利な立場にいると感じている」と、北朝鮮と長らく交渉した経験をもつアメリカの元高官は話す。「中間選挙による影響はないだろう。誰も大統領にブレーキをかけてはいないから」。

とはいえ、はたしてトランプ大統領は、今後も過去にささやかれたノーベル平和賞を受賞するという幻想を期待しながら金委員長との取引を続けていくのだろうか。ニューヨークで開かれるはずだったマイク・ポンペオ国務長官と北朝鮮当局者とのハイレベル会談を北朝鮮政府が突如キャンセルしたことは、交渉が深刻な障害に直面していることを示している。

北朝鮮側は非核化の領域であまり前進しておらず、もっとくみしやすいトランプ大統領との2度目の首脳会談の開催に関心を向けている。トランプ大統領は記者会見で急ぐ必要はないとの見解を示しながらも、首脳会談は来年初頭にも開催されるだろうとも付け加えた。

「北朝鮮政府はトランプ大統領が『敗北』することを誰よりも恐れています。負かす相手がロバート・モラーであれ、ほかの何であれ」と、トランプ大統領に厳しいことで知られる、ある経験豊富な共和党の外交政策の専門家は中間選挙に先立ってこう語った。なぜならトランプ大統領にとって「中間選挙の結果が悪ければ、彼は政治的遺産作りにより専念する」ことが見込まれるからだ。

少なくともこれから2年間、世界はトランプ大統領が政治的遺産作りに勤しむのに対して、これに対処する手段を講じていかなければならない。