「一連の不祥事は、なんの結論も出ていない」
 こう言い切る番記者がいる。貴乃花親方へのブーイングに対して、同記者が原稿を寄せた。「鬼の稽古」からも見える、親方が揺るがない理由とは。

 私は2018年の初場所は連日、両国の国技館に取材に出向いていた。

 二日目のことだった。貴乃花親方(45)は役員控室から出てくると、通路に落ちている2つのゴミ屑を拾ってポケットに入れようとした。

「目についたゴミは拾うもの」

 この習慣は、現役時代から続けていることだ。まったく変わっていない……。取材現場のど真ん中にいながら、私は何か嬉しさがこみ上げてきた。次の瞬間、私は自分の右手をそのゴミに差し伸べていた。差し伸べられた私の手、そして私の顔へと貴乃花親方の視線が移る。

 すると、連日報道陣が追いかけても、いっさい無言を貫いていた貴乃花親方が「何しに来ているんですか?」と微笑みながら、口にしたのだ。

「親方が心配で来たんですよ」と返すと、再び笑顔で「大丈夫ですから、本当に大丈夫ですから」と笑って帰路に就いたのだーー。

■貴乃花との出会い

 初めて会ったのは貴乃花親方15歳のとき。思えば30年もの月日が経つ。父である先代、故・貴ノ花(2005年没・享年55)が興した藤島部屋に、兄である花田勝氏(当時・元横綱若乃花)と一緒に入門。当時、大きな話題となっていた。ほぼ連日、藤島部屋に通った。

 入門以来、貴乃花光司という男は相撲がからむと、今も昔もただの一度もブレたことはない。こと相撲となると、突き刺さる「目力」は、今回の騒動でも一貫していた。

 貴乃花親方は、2004年に自分で部屋を興してから「弟子は自分の子供ですから」と、つねに口にしていた。一番弟子・貴ノ岩が現役横綱から暴行を受けたことは、自分の身が引き千切られるほどの痛みだったに違いない。

 3月1日、およそ4カ月ぶりに公の場に姿を現わした貴ノ岩。これは春場所に向けて、親方と担当記者らが交渉をして実現した囲み会見だった。しかし、わずか2分18秒で打ち切られた。

「横綱(日馬富士)からの頭部の……」という質問を受けたとたん親方自身が、いつもの目力をこめて会見を止めさせたのだ。貴ノ岩のまわしに、右手を差し出して押し出す貴乃花親方。「もう会見はいいから、早く戻りなさい」という、無言の気持ちを親心にしてこめた行動だ。

 いまだに、今回の一連の不祥事については、なんの結論も出てはいない。礼に始まり、礼に終わるはずの相撲界のはずが、相撲協会執行部のなかでは、誰一人として責任を取っていない。貴ノ岩への補償問題は完全に蚊帳の外のまま。

 そんななかでも、多くの貴乃花バッシングを、私は相撲協会関係者や同業者から、何度となく直接聞かされた。「沈黙の対応」、「協会の要請を無視」、「協会を通さないテレビインタビュー」……。だが、そのとき私はこう言うことにしている。

「一度でいいですから、貴乃花部屋の稽古を見てください。見たことはありますか」と。