がんでこの世を去った母親が、5歳の娘と夫との家族の日々をつづったエッセイ「はなちゃんのみそ汁」が映画化。結婚、妊娠、出産と人生の転機をがんと闘い、食を大切に生きてきた母・千恵さんを演じるのは、ご自身も母である広末涼子さん。女優として母として、本作と向き合った中で感じた溢れる想いを丁寧に語ってくださいました。


『「家族ってあったかくて楽しい」ということを伝えたかった』


――「はなちゃんのみそ汁」は原作の人気はもちろん、テレビドラマ化もされ大変話題になった作品です。今回、台本を最初にお読みになってどんな思いを感じましたか?

広末:実は映画の撮影が始まるまでに4、5回台本を手直ししてくださったんです。というのもオファーをいただいて、すぐにお引き受けしたのですが、引き受けたのにもかかわらず本をいただいたら悲しすぎて、これは演じられないと思って(笑)。がんと戦う闘病記という部分や、みなさんご存じの結末とはとても矛盾しているかもしれませんが、私はもっと「明るくしたい」と思ったんです。

――それはなぜですか?

広末:この映画を観ていただく方の世代や性別を考えると、お母様たちや女性が多いのではないかと思ったんです。そう考えると、そんなに悲しくてつらいものをあまり観たくはないのではないかと思って…。「はなちゃんのみそ汁」をもともとご存知で結末を知っている方にとっては、劇場に足を運ぶのは気が重たくなってしまうのではないかとも考えて、もっとポジティブに前向きに、「生きていることって素晴らしい」「家族ってあったかくって楽しい」と、ただ泣ける感動作ではなく「もっとキラキラした映画にしたい」と監督にご相談させていただきました。千恵さんご自身の、笑いを大事にしていた部分や、外の世界と繋がっていくことを大事にしていたこと、笑顔を大切にしていた天真爛漫さのようなものをもっとクローズアップしたら、違うカタチの作品になるのではないかなと監督とお話をして何度も手直ししてくださり、最終的にとても笑って泣ける台本になりました。


――広末さんご自身がすでに千恵さんに寄り添って台本から参加されていたんですね。決定稿をお読みになっていかがでしたか?

広末:最終稿は移動の飛行機の中で読んだのですが、もう笑うは泣くは忙しくて(笑)。でもそこでやっと出発地点に立つことができて、自分の中でも気持ちにGOが出せました。滝藤さんが演じる夫の配役もしかり、若干4歳でお芝居の経験がない赤松えみなちゃんと共演するということもしかり、たくさん監督と話し合って撮影初日を迎えました。

――最初の台本と変わった部分はどんな所ですか?

広末:作品全体のテンポ感、リズム感、「笑い」の部分がガラッと変わりました。私は「映画には夢があって欲しい」と思っているんです。リアリティだけに縛られる必要はないし、非現実的であってもいい。女性は特に現実とは違う世界を味わいたくて映画を観る方もいらっしゃると思うので、ただ共感できるだけではなく、あったかくてキラキラしたお話にしたいと思いました。医療の現場の方がご覧になると「こんな甘いものではないし、全然違う」と言われるかもしれませんが、映画は原作とは違うアプローチなので、わかっていただけるのではないかと思います。

――それは広末さんご自身、原作をじっくりと読み込んで落としこんだからこそ感じられた思いなんですね。

広末:ご本人が書かれたものを読むと壮絶で大変だったことはわかった上で、逆に辛い部分をなるべくそぎ落として描きたいと思ったんです。闘病記をリアルに突き詰めるのではなくて、「生きている日常の大切さやありがたさ」、「母親としての彼女の強さや優しさが心に響く作品になるといいな」と思います。


『滝藤(賢一)さんはすごく感情が溢れていらっしゃる方でした』


――今おっしゃられたように、劇中はがんをテーマにしたお話でありながら夫役の滝藤賢一さんとの掛け合いなどもテンポがよくて意外でした。滝藤さんとは現場ではどのような感じだったのですか?

広末:滝藤さんはあまり役に感情移入して泣くようなタイプではないというようなことをお聞きしていたので、客観的に役を捉えたり、クールに演じられる方なのかなと思っていたのですが、フタを開けてみたらすぐ泣いちゃう(笑)。なので「そんなに悲しくならないでください~!」と何度かお話したこともありました。監督も滝藤さんが泣くのを止めていらっしゃいましたね(笑)。

―――特に印象的だった滝藤さんのシーンはありますか?

広末:私ががんの告知結果を伝えるシーンでそこまではテンポよく進んでいたのですが、告白した途端にすごいショックを受けていらっしゃって…。「落ち込まれすぎると私も演じづらいです~」というような感じでした(笑)。すごく感情が溢れていらっしゃることが伝わってきました。


『撮影中はちょっと気を抜くと涙が出てしまいそうな毎日でした』


――その中で広末さんは千恵さんを演じていて感情面などはどうでしたか?

広末:いわゆる“役が降りてきた”ということではありませんが、千恵さん自身のブログや本を読ませていただいて共感する思いが強かったので、ずっと彼女を生きているような感覚でした。特別に、役に切り替えたり、演じている感じではなかったので、ちょっと気を抜くと涙が出てしまいそうな毎日でした。でも「絶対に泣かないぞ!」「この作品の中では彼女は泣いちゃいけない」と思ったんです。

―――なぜですか?

広末:笑っていることが彼女の母親としての強さであり優しさだから、はなちゃんの前で泣いてはいけないし、きっと自分が辛いとかしんどいという思いよりも、残されるはなちゃんへの心配や不安の方が強かったと思うんです。そういう意味では自分が弱いところを見せて不安にしてはいけないと意識しました。それは夫に対しても同じで、とにかく明るく演じようと思いました。「どんなに明るく演じたとしても悲しいことに変わりはないので、悲しく演じる必要なんてまったくない」と思って。だから滝藤さんにも悲しくならないでください、とお願いをしていました(笑)。


――役作りで一番苦労した点はありますか?

広末:病気という部分は避けて通れないところなので、コンサートシーンは監督はウィッグをつけて撮るつもりだったのですが、自毛を切って臨みました。一番大切な、肝になるシーンで嘘をつくのは嫌だなと思ったんです。監督は喜んでくださいましたね(笑)。ヘアスタイルだけではなく、体重を落としたいとも思いましたし、あと千恵さんは声楽をずっと勉強されていたので発声の仕方から立ち姿、ステージの歌い方の癖や方法論などは教えてもらいました。三線も教えてもらいました。

―――身も心も千恵さんに寄り添っていらっしゃったんですね。

広末:ただ病魔と闘いながら、最終的に声が出にくくなっていくというのをどう演じるかが一番難しいところでした。実際の千恵さんのコンサートの映像も見せていただきましたが、どこまで届けなくてはならないのか、どこまでリアルでなければならないのか、映画として何を一番優先して伝えるのかなどを考えながら撮影しました。自分が経験したことがないことなので、いわゆる病の進行状況などをちゃんと理解して演じることは難しかったですね。


『女優として“伝える”ことは、自分にできる“社会貢献”』



――ここ最近は『想いのこし』など、母親役や亡くなってしまう役が多いですよね。

広末:偶然です(笑)。私は「こういう役をやりたい」と言わないタイプなんです。言ってしまうと自分のプロデュースになってしまって役の幅を狭めてしまうと思うので、「こういう役をやらせたい」というお話をいただくことで自分が女優として成長していけるのではないかと思っています。だからたまたま子どもを残していくという役が続いてしまいました(笑)。

―――「亡くなる」役を演じる中で気づきなどはありますか?

広末:命と向き合う、死と向き合うということは、今と向き合うことで、きっと誰しもいつか訪れる別れや成長に繋がることだと思うので、毎回私自身、考えさせられます。同時に、本当に今ある日常のありがたさ、健康のありがたさを痛感させられるので観ていただいた方にも小さな原動力になったり、力になってくれるのではないかなと思います。

――「子どもを残して死んでしまう」というのは演じるだけでもツライと思いますが、母親としてはどう擦り合わせていましたか?

広末:今回も自分だったらとっくに泣いているんですよね、本当に(笑)。でも、伝える立場にいるということが自分の小さい頃からの夢であった女優としての幸運ですし、自分にできる社会貢献なのではないか、と最近思っています。

――社会貢献。とても興味深い捉え方ですね。

広末:残された人生をどうするかと考えた時に、果たして女優でいるかと考えると、ただずっと家族といたいかもしれないし、はっきり言ってわからないのですが、この役を演らせてもらえるということを考えると、自分の家族だけに24時間全身全霊を注ぐということではなく、仕事もちゃんと持って社会と向き合っていくということが自分の使命なのではないかなと思います。天秤にはかけられませんが私は何かを諦める、とか何かを優先するのではなくて、全部に全力投球していきたいと今は思っています。


『誰と食べるか…その原点が家族で、親子じゃないかと思うんです』



――今回お料理からも「生きることは食べること」というメッセージが伝わる作品になっていますよね。

広末:私も食べることが大好きで食べる場所や時間、空気感は本当に大切だと思っています。食べることが自分の栄養になるということもそうですけど、誰と食べるかと考えた時に、その原点が家族で、親子ではないかと思うんです。そのテーマが描かれていることがこの映画のとても大好きなところです。

――広末さんがご自身の生活の中で食に対して意識していることや、この作品に関わったことで変わったことなどはありますか?

広末:食に対して改めて感じたのは、自分もお仕事がハードになってくると規則的な食事ができなかったり、汗をかきたくないからとか、お手洗いに行けないからという理由で水分をあまり摂らないこともあるのですが、それで体が冷えてしまったり体調を崩したりしてしまうこともあります。その対局にある「ちゃんと体を温める、食事を摂る、根菜を大事にする、平均体温を上げる食事」ということをこの映画はクローズアップしているので、食事療法ということだけではなく、「食育」として大事なことがたくさん詰まっています。自分も改めて反省させられるなということがたくさんありましたね。


『笑顔、人との繋がり、明るく楽しむことを子供に伝えていきたい』


――一番好きなシーンや、セリフはありますか?

広末:はなちゃんと料理をしている何気ないシーンが好きですね。アドリブがいっぱいのシーンが好きです。

――はなちゃんとのシーンはアドリブなんですか?

広末:お料理シーンについては、工程はいくつか決まっていましたが、セリフは決まっていませんでした。あまり制限してしまうと彼女の自然な表情が切り取れないので自由演技のようなことが多かったですね。鰹節をつまみ食いするところなど、指示していないのですぐ食べちゃうんです。この(劇場用)ポスターの写真も確かつまみ食いの手を止めたのか、私の話を聞いて欲しくてはなちゃんの手を握っているんです(笑)。彼女を制限しないということがすごく大きなテーマだったので、彼女のキラキラしたイキイキした表情が見られる所が好きです。

――他に印象的なシーンはありましたか?

広末:やっぱり千恵さんの言葉は本当に心に響くものがたくさんありました。その中でも、はなちゃんを一度叱る「ちゃんと作る、ちゃんと食べる、それが生きることだ」というメッセージはこの作品のテーマであり、一番好きなシーンですね。

――広末さんだったら子どもに何を残したいですか?

広末:千恵さんと一緒だなと思うのですが、笑顔や、生きることを楽しむこと、ありがとうという気持ちを持つこと…ではないかなと思います。人と人との繋がりを大事にすること、人に優しくすること、明るく楽しむことを伝えていきたいなと思います。

――それって本当に映画全体のテーマですよね。

広末:そうですね、本当に。だから最後のママがいなくなってからの日常のシーンも、千恵さんの目線というか、千恵さんがちょっと舞いこんできて2人を見ているのではないかなと思わせるようなカメラワークになっているのですが、千恵さんはいなくなったわけではなく、ふたりの中で生き続けているので、そういう部分でも明るく前向きな映画だと思ってもらえたら嬉しいです。

――千恵さんと広末さん、重なるところはありますか?前向きさみたいなところとか。

広末:千恵さんの陰に籠もり過ぎないアクティブさのようなところはとても自分と似ているところではないかなと思います。


『子どもの寝顔ってやっぱり一番ホッとするし、癒されます』



――最後に「Peachy」とは“ごきげん”“HAPPY”という意味のスラングなのですが、広末さんのハッピーの源を教えてください。

広末:なんだろう…。(スタッフからの「もう10月だし(取材時)手帳は?」という提案に)手帳!?…それはなくてはダメですね(笑)。でもハッピーではなくて実用性ですよね。…ハッピーでもあるのかな(笑)。

――あとは作品のテーマでもありますけど、お子さんと一緒にいる時なんかもやっぱりハッピーですか?

広末:子どもと過ごすことはハッピーですね。みなさんそうだと思いますが、やっぱり寝顔を見ると一番ホッとしますし、癒されるし、原動力になりますね。


「はなちゃんのみそ汁」は12月19日よりテアトル新宿&福岡県内先行、2016年1月9(土)より全国ロードショー。
公式サイト:http://hanamiso.com/

撮影:鈴木愛子
取材・文:木村友美
制作・編集:iD inc.