中国人観光客による「爆買い」がメディアを騒がしている。

 5〜10万円もする高級炊飯器を1人で2個も3個も買い込み、集団で銀座のブランドショップに押しかけると数百万円単位で買い漁る。80年代後半、バブル期の日本人を思い起こさせるような凄まじいまでの消費意欲。だが、実は彼らの「爆買い」には大きな謎がある。

 在日中国人向け新聞『東方時報』社長で、上海出身の福島大毅氏は語る。

「中国はGDPで世界第二位の経済大国になりましたが、1人あたりの名目GDPでは、いまだ世界89位(約60万円)に過ぎません。これは日本の6分の1程度です。まだまだ先進国と呼ぶには程遠い数字ですよ。こんな経済レベルの国民が、海外に大挙して押しかけ、爆買いなんてできると思いますか?」 

 たしかに奇妙ではある。しかし、13億もの人口を抱える国、富裕層の数も億単位だ。こうした一部金持ちが爆買いをしてるのではないのか?

「それはちょっと違う。本当の金持ちは、ツアーで来日してちまちま買い物をするなんてことはしません。日本にやって来て、家電などを爆買いしている人の多くは、表向きの年収が100万円〜300万円程度の中間層です。日本人だったら年収が500万円あっても、そんな爆買いなんてできませんよね? おかしいでしょ?」(福島氏)

統計に出ない“本業以外の収入”が源泉

 爆買い報道などによって、中国人=お金持ちのイメージが広まっているが、実際は福島氏がいうのが現状だ。

 今年2月、中国メディア「参考消息網」が報じたところによれば、中国31省区市の市民1人あたりの平均年収は約30万円を少し超える程度。トップの上海でさえ、4万7710元(90万7900円)と100万円にも満たない。

「地方では、中心部でも年収50万円以下の人が大半を占めています。それなのに、東北部など比較的貧しい地域からも、買い物目当てに観光客が押しかけている。不思議でしょ?」

 それでは、一体どういうことなのか?

「中国人の多くは、本業だけでカネを得ているわけではないからです。みなさまざまな副業を持っている。表向きの年収が100万円程度でも、表に出ない裏の収入がその数倍あったりする。中国では本業しかない人間は無能と見られ、実際そういう人は今も底辺に沈んだままです。ちょっと目端の利く人は、ネット販売をしたり、役人に賄賂を贈って利権の一部にありついたりして、本業以上に稼いでいるものなんです」

 さすが賄賂大国、副業大国の中国だけある。数百億、数千億円規模の不正蓄財が発覚した政治家、政府要人も多い中国では、規模の違いはあれ、庶民も同じことをしているということか。

 いい悪いは別として、何ともパワフルな国民性である。

(取材・文/小林靖樹)