2008年から始まったサントリーの「角ハイボール」のテレビCMキャンペーン。今年で7年目になるわけだが、これまで登場してきたハイボールマドンナは、初代が小雪で、2代目は菅野美穂だった。そして現在は、3代目の井川遥がテレビ画面のなかで美味しそうにグラスを傾けている。そんなCMを目にして思わず喉を鳴らしてしまう男性諸氏が少なくないようである。

 居酒屋に行くと、いまやハイボールは定番メニューで、サントリー角の他にも、山崎、ブラックニッカなどいろいろな種類がある。ビールの大ジョッキを使って「メガハイボール」と銘打って提供する店も現れた。値段だってそう高くはなく、普通のサイズで400円前後の店が多い。メガサイズだって安い店だと500円でお釣りがくるくらいだ。懐をあまり痛めずにホロ酔い気分になれるということで、いまでは女性のお客がハイボールのグラスを傾ける姿もよく見かけるようになった。ある居酒屋の店主は「サントリーが大量にハイボールのテレビCMや屋外広告を出してくれてる恩恵を受けてますよ」と笑う。

 そんな人気上昇中のハイボールの裏事情について、ある飲食店の関係者がこう打ち明ける。

「原価がいくらだかわかりますか? 『普通サイズだと150円ぐらいかなぁ』ですって、とんでもない。せいぜい40円から50円くらいのものですよ。氷や炭酸水なんてたかがしれているでしょう。肝心なウイスキーだって4L入りのものをを安く仕入れて、ちょっと薄めにして出せば、こんなもので済んでしまいます。ビールを売るよりも利幅が断然、大きいんです。ワタミの苦戦に代表されるように居酒屋全般の売り上げが伸び悩んでいるなか、まさにハイボールさまさまですよ」と教えてくれた。

4L入りボトルで160杯のハイボールが作れる?

 一方、別の飲食店関係者もハイボールの旨味についてこう話す。

「チューハイに比べて、ハイボールは薄くてもあまり気付かず、文句を言われないんですね。ウーロンハイで薄く作ると『ウーロン茶じゃねぇか! 焼酎入っての?』と言われますけど、ハイボールにはそれがない。増税と円安で材料費が10〜20%あがってるけど、ウチは価格をほぼ据え置きでやってます。するとハイボールをたくさん売って補填するしかない。逆にいうとハイボールがなかったら、メニューを全部1割くらいあげないと経営が成り立たない」

 こうした証言はおおげさでも何でもない。4Lペットボトルで販売されているウイスキーは安価なもので小売価格が2800〜3000円だ。ハイボール1杯には通常30mlのウイスキーを入れることになっているか、少し薄めにして25mlにすると160杯分になる計算だ(ウイスキーだけで1杯あたり20円以下になる計算)。炭酸水やカットレモン、氷の値段を足しても一杯の原価40〜50円という値段はウソではないのだ。

 せっかく美味しく飲んでいたハイボールを、なんだか苦い味にしてしまったようで恐縮だが、居酒屋も商売であり、取るべきところからはちゃんと取っているということだ。さすがに、角ハイボールといっていて実は格下のサントリーホワイトで代用しているようなことは、レストランなどで相次いで食材の偽装が問題になったことがまだ記憶に新しいだけに、多分ないだろう。

 そしてハイボールで思い出すのが、筆者が以前訪れた居酒屋。コース料理を頼むと飲み放題になるのだが、飲み放題のハイボールにはウイスキーの香りがほとんどなく、とにもかくにも薄い。水とはいわないが4〜5杯飲んでもまったく酔う気配がない。さらに、頼んでから出てくるまでに5分以上かかる。それに懲りたのか、周りのお客は一度に人数分以上のハイボールを頼み始めた。結果どうなったかというと、追加オーダーした私に「すみません、空のジョッキが無くなってお作りできません」と言い出す始末。オペレーションの悪さが問題なのだが、こんなことをしていたら、せっかくのハイボール人気に水を差すような気がして仕方がない。

(取材・文/松本周二)