フォトジャーナリストとして長年にわたり中東やチェルノブイリを取材し続けてきた重鎮・広河隆一氏。

現在、イスラエルの取材から帰ってきたばかりの広川氏に「安倍首相が出した声明をイスラム社会はどのように受け止めているのか」から「ジャーナリストの在り方」まで語っていただいた。

■安倍首相はあえてイスラム国を挑発した

―イスラエルは、今回の安倍首相が出した声明をどうとらえていますか?

「安倍首相は、イスラエルの国旗と日本の国旗の前で記者会見をしました。これは自国民を人質にされている国家としてはあり得ないことです。『イスラム国』だけでなく、世界のイスラム教徒全体を失望させるか敵に回す行為です。外交というものは細心の配慮でかろうじて持ちこたえるものなのに『イスラム国』にとっては、顔を雑巾で逆なでされたに等しく、これが最悪の選択を決意させたのです。

安倍首相はともかく、側近が外交のイロハを知らないわけはありません。安倍首相はあえてイスラム国を挑発しました。挑発されれば、相手はさらに強硬な手段で対抗してこようとします。そして、その強硬な手段に対抗するために自衛隊を海外派遣し、集団的自衛権を行使できるようにする。これは織り込み済みだったのでしょう」

―では、日本は今後、この戦争に加担することになる?

「日本はこれまで戦争とは関係なかったと思っている人が多いと思いますが、アフガニスタン紛争の時、爆撃機に燃料を提供したのは日本です。イラク戦争の時に後方支援したのも日本です。日本はすでに戦争に加担しています。

そして、アメリカを中心にこれらの戦争を進める側は、自分たちに都合の悪いことをすべて隠します。例えば、殺したのはテロリストだけで、民間人は殺していないなどと嘘の発表をします。

私はアフガニスタンやイラクで爆撃された村々を回りましたが、圧倒的な犠牲者は民間人、それも女性や子供でした。加害者は必ず被害を隠します。そこでジャーナリストは、加害者が何を隠しているのか、そこで本当は何が起きていたのかを伝えるのです」―広河さんが、ジャーナリストになろうと思った理由はなんですか?

「僕はチェルノブイリ原発事故の救援運動もしていて、放射能に汚染された子供たちの保養センターをつくりました。そして、何度かこのセンターで子供たち向けにジャーナリズム教室を開きました。

そこで『キミたちは甲状腺の手術をして、その時死ぬほど怖い思いをしたでしょう。じゃあ、なぜ病気になったのか。それは原発が爆発した後の放射能のことを隠されたり、その時に飲まなければいけない薬を飲まなかったり、そうしたみんなが生きていくための情報が与えられなかったからです』と教えました。

そして、『みんなも含めて、世界中の人たちが持っている共通の大事な権利がひとつあります。それは生きる権利です。生きる権利とは幸せに生きる権利や健康に生きる権利が含まれていて、この生きる権利を行使するために自分たちの代表を選挙で選んだり、憲法を持ったりする必要がある。

でも、自分たちが選んだ人たちが権力を持った後、本当に人々の生きる権利を守ってくれるわけではなくて、いつの間にか戦争の道に進んでしまうかもしれない。そこで、生きる権利とともに必要なのが知る権利で、その知る権利をみんなから委託されているのがジャーナリストなんだよ』と伝えました。

だから、ジャーナリストは隠された真実を人々に伝えるのが仕事で、軍や政府や大企業が隠していることがないかを調べるわけです。政府の言ったことをそのまま垂れ流すのはジャーナリズムではありません。

むしろ、軍や政府が『立ち入り禁止』だと言ったら、その中で知られてはまずいことが隠されているかもしれないと考え、中に入って取材活動をする。

私は人々の生きる権利とつながることを求めてジャーナリストを続けたいと思っています」

(取材・文/村上隆保 撮影/本多治季)

●広河隆一(ひろかわ・りゅういち)

1943年生まれ。67年から中東、チェルノブイリ問題などを取材。83年にIOJ世界報道写真コンテスト大賞・金賞、2003年土門拳賞など受賞多数