数ある保険商品の中には、加入者を騙して手数料をぼったくるようなものもある。ヤバイ商品をつかまない「目」を養おう。

■きれいな名前を疑え

多くの保険には愛称と正式名称がある。私たちがよく目にするのは愛称のほうだ。例えば「かがやき、つづく」は愛称で、正式名称は「目標設定特則付一般勘定移行型変額終身保険」。「収穫名人」は「5年ごと利差配当付一時払変額個人年金保険」。こうした愛称は包装紙のようなもので、包装紙がきれいだと、中身もよさそうに見えてくる。それに正式名称だけでは、呪文のように長く難しいので覚えられない。

では愛称は、正式名の意味を正しく伝えるように名付けられているのかというとそうでもなく、むしろ漠然としたものが多い。会社の立場では、フィルターが何枚もかかっていたほうが、中身が見えにくくて都合がいいのだろう。

保険コンサルタントの後田亨氏は、「保険は、名称に惑わされず、自力で他人に契約内容を説明できるのかという基準で選ぶといい」と説く。

「私は講演で、保険の名称について、こんな例えで説明します。『私は上着を着て皆さんの前に立っていますが、私が本当にいい男だったら、Tシャツ一枚で勝負してますよ』って。『なぜ上着を着てるかわかりますか。貧相な骨格だからですよ』と」(後田氏)

だが、そんなふうに名前をきれいに飾り立てているのは、私たちにとってありがたいことかもしれない。なぜなら、理解できない正式名称や、あいまいな愛称がついた商品とは付き合わないという基準で選別ができるからだ。

「愛称は会社の立場で読み替えると、ブラックジョークみたいでおもしろいですよ。契約を取ることで会社が輝き続けるとか、お客様の利益を手数料という形で会社が収穫する名人というように」(後田氏)

きれいな名前に惑わされず、誰もが自分で内容を説明できるものといえば、「死んだら保険金が支払われる」という死亡保険くらいだろうか。だが保険は、そのくらいシンプルなもので十分なのだ。

「小さいときに親や先生に『知らないオジサンについてってはいけません』と習うじゃないですか。あれと一緒で、よく知らない保険についていってはいけません」(後田氏)

■営業マンの「サ行」を疑え

生命保険会社から見れば、営業マンなど「いずれ辞める人」という扱いだ。多くの人は親兄弟や親戚、友達を保険に加入させると、新たな契約が取れなくなって用済みになる。

そんな世界で20年生き残っている、「ブラック営業マン」を自称する男性が言う。

「私が生き残っているわけは、自分から話すのではなく、お客さんを観察して、聞きたそうなことを話すように努めたから」

客の話を聞いていると、たとえば「この人は掛け捨て保険が嫌いだ」というのが何となく伝わってくるという。そこで掛け捨て保険と、貯蓄性のある終身保険の両方を提示し、客が「終身のほうがいいかなあ」と言ったら、「そうなんですよ。さすが、お目が高い!」と誉める。言い方は人によって変えるとしても、とにかくその人が聞きたそうなことを言えばいいのだ。マッサージに行って、もし「なんでこの程度で来たの?」と言われたらカチンとくるだろうが、「すごく凝ってますね」と言われるとうれしくなるではないか。人には、聞きたい言葉、言ってほしい言葉があるのだ。

そんな心理を突くブラック営業マンはこう続ける。

「何度か会っていると、お客さんは同じ話を繰り返すようになる。そんなときは内心『また、この話か』と思っても、初めて聞いたかのように、『そうなんですか』『すごいですね』と言います。気に入られるために演技してるだけですよ。そうやって1時間ぐらい我慢して話を聞けば契約が取れるんだから」

すべての営業マンがこんな“ブラック”ばかりではないが、調子の良すぎる態度には気を付けたい。後田氏も「保険を営業マンの人柄で決めてはいけません」と注意を促す。

「私は保険会社に勤めていた頃、生真面目に提案書を上から読んでも、あまり契約が取れないことに気付きました。商品の説明なんて専門用語ばかりなので、お客様が途中で飽きてしまうのでしょう。売れる営業マンは説明を簡潔にして、『気になる点はありますか?』と、お客様に質問を促すのがうまい。そのほうが早く勝負がつくんです。お客様はいつも保険のことばかり考えているわけではありませんから、出てくる質問はたいてい似ています。そのため回答をあらかじめ用意しておくのもたやすい。その答えを提示するだけで、お客様は断る理由がなくなっていくんです」(後田氏)

後田氏も、営業にはそういった技術的な側面もあるのだと気付いてから、「お客様との交渉がおもしろくなった時期もあった」と苦笑する。

売れる営業マンは、こういったテクニックに長けているうえ、話し方も慎重だ。うっかり失言をして、人として嫌われてしまうと、客は何を言っても耳を貸さなくなるからだ。後田氏は、口のうまい営業マンの特徴として、こんな例を挙げた。

「以前“サ行”を意識して話す同僚がいました。『さすがですねえ』『知りませんでした』『素晴らしいです』『正解です』『そうですか』。これを冗談交じりに“サ行の法則”と呼んでいました」(後田氏)

そういえば前出のブラック営業マンも、口では「そうですか」「すごいですね」とサ行を連呼すると言っていたではないか。

にこやかな顔でサ行の言葉だけを繰り返す営業マンには、疑ってかかったほうがいい。

■盛りだくさんの特約を疑え

「保険加入は、クジや賭けに似ています」

後田氏はショッキングな例え方をした。保険は保険会社の売る商品なのだから、保険料にはもちろん会社の経費が含まれている。この経費率を開示している保険会社は1社しかないが、後田氏によると、おおむね20%台だという。

「それは競馬の控除率に近い。威張れる数字ではありません。『就業不能に備えるために馬券を買った。がんに備えるための馬券も買った。もう何があっても心配ない』と言う人がいたら、ヘンでしょう」(後田氏)

会社の経費がかかる分、加入者に払い戻される金額は、トータルでは必ず100%を下回る。だから主たる契約に特約を増やすという選択は、損する機会を増やすことになる。特約の数を増やすほど、保障する期間を延ばすほど、損は膨らむ。あたりまえだが、ギャンブルでは幅広い目に賭ければ損をする。保険も同じことだ。

「だから『より、多くの安心を』という特約のつけ方は間違いなんです。『仕方なく基本契約だけで済ます』という姿勢が正しい。『一生涯の安心を』というのも間違いです」(後田氏)

賭けをする期間は短いほど損を抑えられる。しかし客の多くはたくさん特約がついた商品をありがたがる。特約は会社がサービスで配るおまけではない。そしてたくさん特約がついていれば、その分、商品名も長い。

「『特約付き○○』みたいな、やたら長い商品名がついたパッケージ商品は避けたほうがいいでしょう。ただこんなことを言うと、『特約をつけずに、80歳になったときに保障が切れたらどうするんだ』なんて叱られます。私も営業マン時代は『本当に保険の世話になりたいとき役に立たなくてどうするんですか』と言いながら売っていました。反省しています」(後田氏)

たまに「病気になる、ならないは確率論にすぎない」という冷静な人もいる。だがそんな人も、「では100人中1人しか病気にかからないとして、なぜあなたがその1人にならないと言い切れるのか」と問うと、答えに詰まる。

「お客様と営業マンの間でそういうやりとりが交わされることはありますが、それってヘンな話なんですよ。確率をどう評価するかという問題から、『なぜ言い切れるか』と論点がすり替わってしまっているんですから。でもそう言われると刺さるんです。それくらい不安や恐怖、感情ってコントロールしにくいんです」(後田氏)

だから保険会社は、「そんな人に限って……」というような、恐怖を増幅するCMを打つのだ。逆に「私は保険に加入してすぐに病気にかかった。保険に入っていてよかった」という体験談を話させるパターンのCMも多い。しかし、考えてみてほしい。そんな人ばかりだったら、会社はつぶれてしまうだろう。

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一般社団法人バトン「保険相談室」代表理事 後田 亨
大手生命保険会社や乗り合い代理店を経て、2012年に独立。現在は執筆やセミナー講師、個人向け有料相談を手掛けている。日経新聞電子版で「保険会社が言わないホントの保険の話」を連載中。最新刊『保険外交員も実は知らない生保の話』ほか、著書多数。

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(文=山本信幸 話を聞いた人=一般社団法人バトン「保険相談室」代表理事 後田 亨 )