小売りや外食企業に、アルバイト・パート従業員の待遇、労働環境を改善する動きが広がってきた。深刻化する人手不足から、「ブラック企業」の烙印を押されたままでは求人もままならず、従業員の正社員化に踏み出す企業も現れた。

その代表格は、カジュアル衣料専門店「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングだ。今後2、3年で国内で雇用するアルバイト・パート従業員のほぼ半数に当たる約1万6000人を、働く地域や店舗を限定した「地域正社員」として採用する方針を打ち出した。「販売員が主役の組織に変え、チームとしての全員経営を目指す」との柳井正会長兼社長の発言を素直に受け止めれば、コスト最優先の運営からの一大変心に映る。1人当たり人件費で2割程度上昇する“出血”覚悟の方針転換は、人手の確保が抜き差しならぬ状況にあることを物語る。

店員の“反乱”で深刻な事態に追い込まれた牛丼店最大手「すき家」を展開するゼンショーは、6月をめどにすき家の運営を全国七地域に分け、各300店舗程度の運営に当たる地域分社化に移行する。すき家は2月に投入した「牛すき鍋定食」を巡り、手間がかかりすぎるとの不満が噴出し、大量に店員が辞め、2月から4月にかけて120超の店舗が休業、ほぼ同数の店舗で深夜・早朝営業の休止に追い込まれた。地域分社化は、地域実情に応じた人材配置や労働環境改善によって、人手を確保する狙いがある。

一方、居酒屋チェーンのワタミは、不採算店舗を中心に店舗総数のほぼ1割に当たる60店を閉鎖する。閉鎖した店舗から人員を移し、労働環境を改善する。その結果、減損損失が発生するなどで2014年3月期の連結最終損益は49億円の赤字に。1996年の株式上場以来の赤字を計上するという憂き目を見た。

デフレ脱却を目指す「アベノミクス」は、一方で建設や医療、介護など低待遇分野に深刻な人手不足の歪みも生んでいる。低コストでデフレを乗り切ってきた小売りや外食も同様で、待遇改善の流れはそのビジネスモデルが大きな転機を迎えたことを意味する。政府が6月にまとめる成長戦略は労働市場改革が焦点。企業寄りの政策だけでなく、人手不足、労務環境の改善も大きな課題となる。