NTTドコモが2014年4月10日に発表した国内初の完全な通話定額は通信業界に衝撃をもたらした。一部を除く国内通話であれば、時間や回数にかぎらず無料となるからだ。
これが何故、通信業界に衝撃を与えたらというと、通常、他社への通話は、接続料という料金が発信側の会社に発生する。つまり、長い時間の通話を定額すると発信側に大きな料金負担が発生するので、実現できなかったからだ。

しかしながら、NTTドコモは、この通話定額を発表した。
はたして、NTTドコモは、通話定額を提供して赤字にはならないのだろうか。それとも、追い詰められNTTドコモが、赤字覚悟で起死回生として通話定額プランを投入したのだろうか。

実は、今回のプランにある本当の狙いはそこではない。

●赤字にならない通話定額「カケ・ホーダイプラン」
まず、通話定額である「カケ・ホーダイプラン」であるが、よく確認してみると実に巧妙なプランであると気付かされる。
このプランは、Xi対応スマートフォンでは2,700円(税別、以下すべて税別)、フィーチャーフォン向け2,200円でごく一部を除く国内通話がすべて通話無料となるものだ。これだけでは、たくさん通話をすると、ドコモは赤字になってしまいそうである。だがそうはならない仕組みがある。

まず、最初に確認したいのがARPU(加入者一人あたりの平均売上高。エーアールピーユー、またはアープとも呼ぶ)である。


NTTドコモの事業データでも音声ARPUが急速に低下しているのは明白である


2010年3月時には音声通話のARPUは2,900円であった。しかしスマートフォンが普及すると、音声通話のARPUは年々減少し2014年3月には1,370円まで低下している。さらに、2015年3月には1,240円まで下がるだろうという予測もされている。

一方、MOU(加入者一人あたりの平均通話時間)はどうだろうか。2010年3月には平均136分だった通話時間は、2014年3月でも106分通話されている。つまり、音声通話での売上高は4年ほどで半分以下となったのに対して、平均通話時間は3割しか減少していないことを示している。背景としては、「Xiカケ・ホーダイ」と呼ばれる、現在提供されているXiスマートフォン向けNTTドコモ内通話無料オプションや、家族間通話無料の存在が大きいものと思われる。

つまり、MOU(加入者一人あたりの平均通話時間)は、接続料の請求が無いNTTドコモ同士の通話が一定の割合を占めていることを示している。

さて、ここからが本題だ。今回6月より提供される予定の「カケ・ホーダイプラン」の場合だ。現在の通話の平均売り上げであるARPUが1,370円に対し、2,700円の定額料である。つまり、結果として通話料金の売り上げを押し上げるものとなっていくことは一目瞭然だ。

さらに巧妙なのが、現在のXiプラン受付を2014年8月末で終了することだ。9月以降は通話をしないユーザーでも、通話定額プランしか選択できなくなってしまう。これが示しているのは、現在音声売り上げがほぼ0円に近しいユーザーであっても、月額2,700円の音声通話の売り上げが増えることを示している。

したがって、音声通話の平均売り上げが減少傾向にある中、選択肢を音声通話定額のみとすることで音声通話がほぼ0円のユーザーでさえも定額料金を確保できる。この戦略こそがNTTドコモの狙いであり、勝算の裏付けなのである。

NTTドコモとしては、音声通話をあまり必要としてしないユーザーは1,700円のデータプランを選択すると良いとしているが、それでは電話を全くかけることも受けることもできなくなる。したがって、普段は通話しないが、すこしでも電話が必要というユーザーでも「カケ・ホーダイプラン」一択になることは明白である。

「音声通話定額をします」というのは、音声定額の料金以下しか必要ない通話ユーザーにも、「音声通話定額の料金を負担する」にほかならないのである。


布施 繁樹