天安門前での謎の自動車爆発事件から1週間。

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事件がウイグル人による犯行とされたことで、2009年7月のウルムチ騒乱以来、日本国内の一般報道ベースでは久しぶりにウイグル人の存在がスポットライトを浴びている。

4年前と比較して大きな違いは、中国国内におけるウイグル人の地位や、漢族の社会内部でのウイグル人差別について言及する報道が増えたことだろう。確かに、少なからぬ中国の庶民がウイグル人に対して特に強めの差別感情を抱いていることは、自分の個人的経験からも頷けるところだ。

都市部のアラサー同年代で、そこそこ高い教育を受けていて礼儀正しい(間違っても反日がどうたらなんて下らないことは言わない)「まとも」な中国人の友人が、ウイグル人に関してだけは露骨に蔑視感情を出してボロカスに言う、というケースは決して少なくないのである。

この話が気になる人はニュースサイト・KINBRICKS NOWの記事「漢民族のウイグル人蔑視を素直に伝える、マンガ『中国のヤバい正体』がかなり残念だった件」にも目を通してみてほしい。昨今、良くも悪くも話題のマンガ『中国のヤバい正体』。著者の意図とはまったく外れる読み方になるが、都市部の漢族のウイグル人に対するナチュラルな感覚を知るにはよい資料ではある。(私は著者の孫向文くんと面識があって、書中の記述はさておき個人としての彼には好感を持っているので、こういう形で紹介するのは少し心苦しいんだが……)

……まあ、それはともかくだ。

孫向文くんなり私の他の友人なりの対ウイグル人感情の根っこには、ある共通した主張が存在する。それは「あいつら、特権を持っている」「警察がスルーするのをいいことに、犯罪をやりたい放題だ」といったもの。

今日はこの主張について、ある事件に対するネット上の反応から再確認した上で「漢民族のウイグル人蔑視」というやつを考えてみる。訳文は例によって逐語訳よりもニュアンス優先の超意訳である。

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老刀99、上海市♂(11月1日 21:28)

上海市内の柳州路での写真だ。

二人の子どもを抱いたウイグル族の女性が通行人の携帯を盗んで捕まり、周囲の人から事情を聞かれて責められている。だが、不思議なことにやって来た警察は彼女を逮捕せず、このドロボウは大腕を振って去って行った。

しかも警察はなぜかどろぼうを捕まえた人たちと言い争いをはじめ、ついにその人をパトカーに連れ込んでしまった。

どうなってんだよ!!明らかにおかしいじゃねえか!!!!

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広東省中山♂ (11月1日 21:29)
少数民族の特権ってやつだろ。
街で屋台引いてるやつら(=ウイグル人)を見りゃわかるわな。

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ニュージーランド在住華僑♂ (11月1日 21:31)
特権だからなあ……。
警察でも手は出せない。

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新疆ウルムチ♀ (11月1日 21:32)
ウイグルウイグル言わないでよ。私もウイグル族なんだから。

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河北省石家荘♂ (11月1日 23:28)
少数民族とは面倒事を起こさないに限るよ。

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山東省聊城♂ (11月2日 00:06)
少数民族のみなさん。
お願いだから民族間のトラブルを誘うようなことはやめて。

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天津市♂(11月2日 06:58)
これが天朝様の民族政策だから……。

※ちなみにこの人、顔アイコンに天安門の戦車っぽい画像を設定しており、明らかに中国の現体制には批判的な立場である。

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上海市♂(11月2日 21:55)
そういう政策だから仕方ないじゃん。

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上海市♂ (11月2日 21:58)
捕まえられっこないよ。
もし逮捕でもしたら、
燃料満タンのトラクターが上海市政府に突っ込んできかねないからな。

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上海市♂(11月2日 23:23)
警察はクソ無能だし、ずっと新疆のドロボウたちを好き勝手させてるよ。
今夜も俺が嫁とウォーキングした帰りにさ、
地下鉄共康路駅の近所でたむろしてる新疆のDQNが7人もいたんだわ。
で、嫁に「目を合わせんなよ。物を盗まれるぞ」って言ったばっか。
マジで氏ねよボケがと……。

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アメリカ在住華僑♂ (11月2日 23:28)
警察の皆さん的にはこれが「民族の大団結を守る」ってことになるんですかね?

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北京市♂(11月2日 23:44)
俺たち卑しい南人が高貴な色目人さまにケチつけるわけにはいかないだろ?
堂々と下剋上するわけにもいかないし、そりゃー連中に逆らえば警察にも捕まるさ。
まるで大元帝国の時代に戻ったみたいだな。

※通説では、元朝の支配下では南宋の遺民は「南人」と呼ばれ、中央アジア系の「色目人」よりも低い地位に置かれたとされる。

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北京市♂(11月3日 08:47)
社会の安定が何よりも大事だろ?
ウイグル族を怒らせれば、今度は東方明珠塔に自爆テロされるぜ。

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上海市♂(11月3日 12:36)
甘やかしすぎたがゆえの自業自得ってやつだ。
だから天安門のテロみたいな事件を起こされるんだよ!

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やれやれというか、正直言って似たような意見ばかりで訳すのにうんざりする。

最も大きなうんざりポイントは、六四天安門モチーフの顔アイコンを使う反体制派からアメリカやニュージーランドで暮らす華僑、上海市内で奥さんと仲睦まじく暮らす中産階層の若夫婦に至るまで、みんな意見が一致してしまっていることだ。

今回の翻訳の書き込みの主体になっている人たちというのは、書き込み元のプロフィールを参照した限りでは北京や上海など大都市の住人が多く、社会の内部における相対的な豊かさや幸福度や知的水準が高い人たちもけっこういるように感じられる。

彼らは、例えば反日デモで日本車をぶっ壊して喜んでいたり、ニセ食品を堂々と売っていたりする人たちと比べても、はるかに先進国寄りの生活水準と価値観を持っていて、日本人の視点から見ても付き合いやすい階層に属する人たちであろう。

だが、そんな彼らがこういうふうに考えて暮らしていることも、やはり事実なのである。

マイノリティが持つ「特権(?)」に対して青筋立てて怒るような人々は、日本のネット上にだっている。だが、日本におけるこういう人々の主張というのは、(当事者たちの主観的な認識はともかく)決してリアルな社会の世論において多数派を構成しているとは言いがたいだろう。しかし中国の場合、ちょっとアッパークラスの「普通の善良な市民」たちの階層が、ウイグル人に対してこういう認識を持つに至っているわけなのだ。

この普通の善良な市民たちは、「なぜウイグル人が『中国の少数民族』なのか」「なぜ彼らのなかに『犯罪』に走る人がいるのか」といった問題についてはあまり考えをめぐらさない(そもそも、マジョリティがマイノリティの背景に対して無関心で、敬遠はしても配慮は示さない構図というのは、日本社会をはじめ世界のどこでも見られる。それは中国の社会でも例外ではない)。

一方で、彼らの目に映る都市社会の内部におけるウイグル人の存在というのは、日本のネット上で指摘される「○○の脅威」よりも、はるかに具体的で深刻なリアリティを持った治安上の脅威として認識されている。それがいわゆる「漢民族のウイグル人蔑視」というやつの根幹を形成しているように思われる。すなわち――。

いや、これ以上論じるのは疲れるだけなのでやめにしよう。

今回の記事では、なんともうんざりな事実がここに存在する、ということを提示するにとどめておきたい。

●安田峰俊(やすだみねとし)
1982年滋賀県生まれ。ノンフィクション作家。多摩大学経営情報学部講師。2008〜2012年に「迷路人」のハンドルネームで中国のネット掲示板翻訳ブログ「大陸浪人のススメ」を運営、2010年に中国のネット事情に取材した「中国人の本音」(講談社)で書籍デビュー。ほか「独裁者の教養」(星海社新書)、「中国・電脳大国の嘘」(文藝春秋)など。近著に「和僑」(角川書店)。

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