■マスメディアの質の低い報道と低俗ぶり

U−23ニュージーランド代表との五輪壮行試合で1−1と引き分けたU−23日本代表。国内最後の試合であり、一足先になでしこジャパンがオーストラリア代表との壮行試合で3−0と快勝していただけに、不用意なミスから試合終了間際に失点した関塚ジャパンの試合内容に批判が集中した。

加えて、試合終了直後に権田修一がミスを犯した村松大輔の胸ぐらをつかむ様子がTV画面に映し出されたことで、権田の「やり過ぎ」ともとれる行動にも批判が集まった。しかし、ミックスゾーンで権田は記者に対して「みなさんが明日どう書くか分からないけど、大輔のミスで負けたわけじゃなくて、チーム全体で足りないところがあったんで勝てなかったと何人が本気でそう思ってるかは大事なところだと思います」とその“ジェスチャー”の意図を説明している。

しかしながら、未だスポーツ新聞を中心に権田の行動をネタに用いながらサッカー五輪代表男子バッシングは継続中。長く取材していれば権田が短絡的にそういう行動に出る選手ではないこともわかるはずで、その点からしてもサッカー“マスメディア”の質の低い報道と低俗ぶりは顕著だ。

■2年前の空気に似ている

試合内容の論評についても、確かに展開、1−1というスコアからして批判されるべき材料もあったと思うが、「関塚ジャパンのサッカーのどこが課題なのか」が見えない記事やコラムが多すぎないだろうか。要するに、悪い内容、結果が出た時に後出しじゃんけん的に印象論でダメ出しをしているだけ。冷静に関塚ジャパンのサッカーや意図に迫ろうとする姿勢はなく、2年前のワールドカップ直前の岡田ジャパンに対する空気とどこか似ている。

個人的には19対2というシュート本数と決定機の数の差に表れたように日本がニュージーランドを圧倒した試合であり、試合の終わらせ方や引かれた時に単調になりがちだった攻撃など課題も見えたがロンドン五輪に向けたメンバー18名である程度カウンター仕様のサッカーへの移行に期待と手応えを見出すことのできる試合だったと見ている。実際、サッカーとは相手側の監督や選手のコメントや感想を聞いて総体的に振り返ることのできるスポーツであり、U−23ニュージーランド代表のエンブレン監督も「運が良かった。もっと失点してもおかしくなかった」と試合後の会見で発言している。

■現場からの声をしっかりと反映させるべき

関塚監督も会見の席で、「立ち上がりは躍動感のある20分間でした」と序盤の出来の良さについて言及している。また、攻撃面では「チャンスは作り切れている」、守備面では「相手にボールが渡ったときに、すぐに前で奪い返す。そういう意味で最終ラインはコンパクトにできていた」という評価を与えた上で、攻撃が単調になった要因について「ドリブルがなくなったこと」と今後に向けた改善点についてもしっかり分析できていた。選手では、清武弘嗣が「内容が納得いっても結果がついてきてない」と感想を漏らしている。

こうした現場からの声を反映させれば、批判はあっても大々的にネガティブキャンペーンを展開するような試合ではなかったはず。ましてや、今回のニュージーランド戦が五輪を前にした「壮行試合」である以上、本番に向けたチーム作りやサッカーがメインテーマとして語られるべきだと思うが、試合前後の記者会見でスポーツ紙の記者からは「誰がキャプテン?」、「試合前に水をまいたのは勝負にこだわったからか?」といった“とんちんかん”な質問も相次いだ。

■良い取材、良い記事を書いて欲しい

今更こうした大手メディア、その記者たちに「質の高いサッカー報道を!」とリクエストしたところで馬の耳に念仏なのかもしれないが、ロンドン五輪はFIFA主催の大会ではないため、フリーランスの専門記者の取材が大幅に制限されている。私も取材パスを受けることができず、取材は断念した。よって、チームに帯同してレーニング、試合を取材できる記者仲間たちにはしっかりとサッカーを見て、サッカーそのものを語れる記事を提供してもらいたいと願っている。なぜなら、男女問わずサッカーは五輪の団体競技で最も注目を浴びている競技の一つであり、「サッカー文化の醸成」につなげるチャンスなのだから。